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JR西九州新幹線開業で佐賀県武雄市と嬉野市は西九州の「表」に…しかし住民たちが見つめるシビアな“現実”

JR西九州新幹線開業で生まれる佐賀県の「表」と「裏」#1

2022/09/19

genre : ニュース, 社会

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小料理店の女将、理髪店主、旅館の主人。市井の人々の答えは…

「新幹線が来ると、武雄は潤うと思います」。最初に聞いた30代の飲食店従業員はそう話していた。「新幹線には遠くから人が来るみたいなイメージがあるじゃないですか。私は列車に乗らないので、あくまでイメージですけれど」と笑う。

樹齢3000年以上とされる大楠。武雄市の天然記念物になっていて、観光客も訪れる

 市役所の川内さんには「市内では否定的な話は聞かない」と聞いていたので、このようなものかと思ったが、意外にもその後に出会った人には冷静な声が多かった。

 60代の小料理店の女将は「市役所は『変わる』と言っているけど、私は変わらんと思います。だって、武雄は温泉以外に観光名所があまりないじゃないですか。当初は『長崎新幹線』と言われていたので、皆さんやっぱり長崎へ行くために乗るんでしょう。武雄で途中下車する人が増えるとは思えません」と言い切る。「西九州新幹線」という名称は昨年、JR九州が命名したばかりだ。

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奥に大楠がある武雄神社(武雄市)。数少ない観光スポットの一つ

 70代の理髪店主は「本数は多くなっても、本当に武雄で下りてくれるのか。商工団体の集まりで説明を受けたのですが、長崎までの区間で風景が見えるのはたったの3分の1程度で、あとはトンネルだそうです。さっさと乗り換えて、目的地の長崎へ少しでも早く到着する手段にしかならないのでは。武雄に高速道路ができた時も通過交通が増えただけでした」と話す。

交通の要衝として注目される武雄市。駅の近くにはマンションがいくつも建っている(武雄市)

 武雄温泉街でも、150年の歴史があるという旅館の主人は「以前は50~60軒あった旅館が、今では15軒程度。お客さんには増えてほしいけど、温泉街の現実はなかなか厳しい。私も70代半ばになりましたが、跡継ぎはいません。新型コロナウイルス感染症が流行した後は、夕食の提供もやめてしまいました。自分の代で閉じようと考えています」と元気がなかった。

 別の老舗旅館の従業員は「新幹線にはあまり期待はしていません。でも、いい意味で予想が裏切られ、武雄が変わるといいですね」と弱々しく微笑んだ。

長崎県出身の漫画家、渡辺航さんとコラボしたポスターも(武雄市役所)

 西九州新幹線が佐賀県内で停車する駅はもう一つある。新設される嬉野温泉駅(嬉野市)だ。

「悲願」の嬉野温泉駅。一部の周辺工事は開業後も残る(嬉野市)

 嬉野では1931年に軽便鉄道が廃線になるなどして以降、鉄道がなかった。実に91年ぶりに駅ができ、「悲願の駅」とまで言われてきた。