しかし未解決の問題がいくつか存在し…
ただ、7月末に訪れた時には、やはり駅周辺工事の真っ最中だった。残念ながらこちらは開業日までに工事が終わらない。「資材調達が遅れるなどしたためです。天候の影響もありました。このエリアでは国、市、民間の工事が行われてきました。国の部分は終わったのですが、市の部分は一部の公園工事などが駅の開業後も続きます。民間の部分は年内には終わると思うのですが…」と市役所の担当者は苦しげに話す。
新幹線駅に隣接して建設してきた道の駅「うれしの まるく」も、9月23日の駅開業に合わせて何とかオープンできそうだが、一部の周辺整備が残る。それだけではない。この施設を巡っては、今年度になってからもゴタゴタが生じた。市が運営に当たる指定管理者を選んで6月市議会に提案したところ、「事業者の信用力に懸念がある」などとして否決されてしまったのだ。開業日が迫っているので、市はとりあえず直営に変更した。
そうした紆余曲折の末に客を迎える「嬉野温泉駅」であるにもかかわらず、周辺には温泉情緒がない。
「嬉野温泉駅」なのに、なぜ周辺に温泉情緒がないのか。
美肌の湯として全国に知られた温泉郷があるのに、温泉街は駅から1.5kmほど離れているのだ。近隣の区画整理された土地は、工事中ということもあって殺風景で、移転してきた独立行政法人国立病院機構・嬉野医療センターだけが目立つ。むしろ新しい住宅地に隣接した田園の駅という印象だ。
旅館の女将は「こんな状態で、駅から温泉までお客さんを引っ張れるでしょうか。しかも、武雄温泉駅から嬉野温泉駅までは新幹線でわずか数分。特急から新幹線に乗り換え、さらにまたすぐに下りるという人がいるかなぁと。そもそも在来線は通らないので、私達住民には縁遠い駅です。駅舎はできても、実感が湧かなくて」と話していた。
武雄も、嬉野も、西九州新幹線の開業で「表通り」になるまちだ。しかし、だからと言って、バラ色の未来を描いている住民ばかりではない。むしろシビアに現実を見ている人に多く出会った。そうした生真面目さは、いかにも佐賀県民気質である。
そもそも日本経済は浮かれていられるような状態ではなく、新幹線が通っただけで潤うなどというのは夢物語だろう。どれだけ現実的な工夫と努力ができるか。鉄路の表通りを、本当の意味での「表」にするには、むしろ開業後の取り組みが鍵になる。(#2へ続く)
写真=葉上太郎