西九州新幹線(武雄温泉-長崎間)の開業でできる地域の「表と裏」。
次は「裏通り」に転落する地区を歩いてみたい。佐賀県鹿島市だ。(全2回の2回目/#1から続く)
佐賀県のJR特急には二つのルートがあった。福岡県の博多駅からだと、県都の佐賀駅(佐賀市)を経て、肥前山口駅(佐賀県江北町、9月23日からは江北駅と改称)に至るところまでは一緒だ。
ここで2方向に分かれて、一方は長崎県北部の佐世保駅へ向かう佐世保線ルート。#1で取り上げた武雄温泉駅はこちら側である。もう一方は長崎県南部の長崎駅が終着となる長崎本線ルートだ。
このうち大動脈は後者の長崎本線だった。博多と長崎という大都市を結んでいたからだ。ところが、西九州新幹線は長崎本線に並行せず、内陸部を通って長崎駅へ向かう。有明海沿いを走る長崎本線は表通りから遠く外れた「裏側」の路線になってしまった。
長崎本線の肥前鹿島駅は、鹿島市の玄関口だ。全ての特急が停車していた。
だが、9月23日に西九州新幹線が開通すると、ダイヤは激変する。
「鹿島市内から長崎市への通勤通学は難しくなります」
博多方面に1日45本、長崎方面には44本走っていた特急は、長崎方面が全廃。博多方面も14本しかなくなり、肥前鹿島が特急の終着駅になる。同駅から長崎方面へ行くには、普通列車だけとなる。
鹿島市役所の企画財政課で、新幹線開業・特急減便後のまちづくりを担当している木原智典・企画係長は「肥前鹿島駅はちょうど博多駅と長崎駅の中間点だったので、特急ならどちらへも約1時間で行けました。福岡方面や長崎市への通勤通学で使われてきたので、鹿島市にとっては相当に影響があります。博多-肥前鹿島間の特急は新ダイヤでも朝夕に限っては一定の本数が残るので、不便になってもまだ通勤や通学に利用できます。しかし、長崎市への通勤通学は完全に難しくなります」と話す。
取材に訪れた時も、「鹿島市から長崎市内の大学に通っている学生が1限目の講義に間に合わなくなる」というニュースが地元テレビ局で流れて、市民の大きな話題になっていた。
「JRにも経営があるので理解はします。でも、学生は進路選択が狭まるでしょうね」と、60代の男性はため息をつく。
「だから私達は反対したんです。新幹線が通っても不便になるだけじゃないですか。減少している若者がさらに出て行きかねません。観光客だって来にくくなる。鹿島市にとって何かいいことはあるんですか」。70代の女性は吐き捨てる。
それにしても、なぜこれほどまでに本数が減らされるのか。