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福山 ありがとうございます。ただ、僕も年齢を重ねて、どうしても役に自分自身がにじみ出てきてしまってるような。湯川さんになり切ろうとしても、福山の実年齢とか、自分が経験して感じてきたことはどうしても出てしまう。ただ、湯川さんが全てを超越した存在なのもリアリティがないし、精神的な変化がまったくないわけではないだろうと。そのあたりの塩梅というのは常に、僕はもちろん、監督をはじめとする映像化する時のチームも、トンマナ(トーン&マナー。コンセプトや雰囲気の一貫性)は持っているわけです。

 湯川さんという人は、あいかわらずどこに住んでるのかもわからないし、たとえば自分で洗濯してるのかなんてことも見えない。生活感……まあ、あまりないんですけど(笑)。出張先で出会った人達とはちょっと人間ぽいところもあるけど、やっぱり謎が多い。そういうバランス感は調整しましたが、年を経た特別な変化を見せるために何かをすごく工夫したわけではないんです。そこは自然に出るだろうなと。

『沈黙のパレード』原作

「もう~、こんなところに書いちゃって。圭吾さんったら」

東野 変化という面でいえば、僕はシリーズキャラクターを変化させなきゃ気が済まないんです。他の作家のキャラクターの中には、「いったい人生のうちに何百の事件を解決するんだ?」という探偵役がいたりするわけですけど、自分の場合はせいぜい10作、10事件ぐらいです。それでも多いと思うんだけど。それを、探偵役とはいえ、経験した出来事を自分の人生なりライフスタイルなりに反映させない人間っていないと思うんですよ。その経験を少しずつ肥やしにしたり、糧にしながら、人は変わっていくと思うので。特に長編シリーズではそういうことを強く意識しますね。今回の『沈黙のパレード』でも、湯川は『容疑者Xの献身』で犯人を追い詰めた時のような、あんな苦い思いはもうしたくないというのがある。

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福山 そうやって先生が書いてくださっている確たる設定と設計図があるので、そこにさらに色を付けようとは思わないんです。たぶん、自然とそうなっていくんだと思うんですよね。

東野 ちょっと生意気かもしれませんが、さっきも言いましたように、僕は福山さんをイメージしながら小説を書いてるわけです。一方で福山さんも、年齢を重ねられて変わっていく。今の福山さんが演じる湯川はこんな感じだろうと書けば、自然な形で湯川も変わっていく。無理やりキャラクターを変化させたり、奇抜なことをさせたりする必要はないんじゃないかな。自惚れた言い方かもしれませんけど。