長時間労働で過労死する医師が相次いだことを受けて、約2年後に医師の残業時間の上限が、原則「年960時間以下/月100時間未満」に規制される。違反した場合、「6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金」という罰則規定が付けられた。
一人の教授の発言に、病院運営会議に居合わせた他の教授たちは固唾を飲んだ
9月9日の夕方、教授らが集まる病院運営会議で、岩本理事長は残業時間の削減をめぐり、早口でまくし立てた。(*会議の録音データを独自に入手し、その場での様子を再構成する)
「一部の診療科に(残業が)集中している傾向がありますので、診療対応そのものを少し変えていただくとかしないと、このまま残業時間が100時間あるいは80時間1人でもいたら問題になります。私が知っている国立の某大学は、午前中の麻酔(※手術のことか)が終わったら、午後はさっさと帰れと言われるそうです。残って少し勉強したいと言うと、いやダメだと、時間外になるから服を着替えて出て行きなさいと言われる」
「すみません! 肝胆膵外科の本田ですけど、一言、言わせていただいていいですか」
岩本理事長が話し終えると、間髪を入れずに外科医の本田五郎教授が発言を求めた。すでにマイクを手にしている。
「うちが(残業で)上位に何名も上がっておりますが、手術件数も相当やっておりますし、手術件数が多いから若い人が集まってきてくれるわけです。途中で帰れということになると、多分みんな辞めてよそに行くと思います。人はいなくなりますし、そうしたら先生、やめろと言うんだったらやめるしかないです」
その場に居合わせた教授たちは固唾を飲んだ。岩本理事長に意見する者など、女子医大には誰もいなかったからである。
本田教授は、熊本大学医学部を卒業。都立駒込病院などを経て、2020年から女子医大の消化器・一般外科に着任した。専門は難易度が高い胆道、肝臓、膵臓など。腹腔鏡下手術の第一人者として知られ、海外から手術指導を請われるカリスマ外科医である。
若手外科医の教育にも熱心に取り組んでいる本田教授としては、岩本理事長の発言は看過できなかったらしい。
「結局、なぜこういう(残業時間が多い)ことが起きているかというと、コロナに感染した医師が出てカバーするために、みんなで残って仕事をせざるを得なかったわけです。