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 あえて言わせていただくと、我々、患者も多くて手術も沢山やっています。なのに、コロナ対応とか当直業務とかは均等に分配される。そうすると結局、過剰に働く以外にないのです」

 ゆっくりと感情を抑えて話す本田教授を、目を大きく見開いて見つめていた岩本理事長。話が進むにつれ、憮然とした表情に変わっていくが、本田教授は構わずそのまま続けた。

「結局、稼いでいるのに怒られる、という現象が起きるわけです。そこを病院全体で考えていただかないと。頑張ったら頑張った分だけ怒られる、という現象が起きているわけで。こんなところに人、来ませんよ! 優秀な人は絶対来ない。こんなことを誰も分からないというのは、おかしいんじゃないですか。以上です」

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 最後の言葉を吐き捨てるように口にしてから、本田教授はマイクを置いた。

麻酔科の教授も慎重に言葉を選びながら切り出した

 実は会議の冒頭で本院の赤字について報告があり、手術を増やすように板橋道朗病院長が教授たちに要請していたのだ。その一方で、残業時間は減らせ、という岩本理事長の要求に本田教授は真っ向から反論したのである。

 この日は、これだけでは終わらなかった。

 高度な外科手術では、全身管理を行う麻酔科医が必要となる。女子医大の麻酔科では、年間約8,000件の手術で麻酔管理を行っており、国内トップクラスの症例数だ。

 ただし、この麻酔科も医師不足なので、1人あたりの残業時間が長くなる。女子医大出身の麻酔科・長坂安子教授は、慎重に言葉を選びながら切り出した。

麻酔科の様子(HPより)

「1人あたりの過重労働を、スタッフを増やして分散する必要があります。他院から麻酔科にきてくれる人が現れていますが、他院で助教だった方が、当院で助教の採用申請が却下されて、助手としての職位を丸義朗学長から提案されています」

 丸学長が考案した「各診療科の定員規定」は理事会で承認され、2022年4月から施行された。この規定によると、すべての診療科は原則的に「教授1、准教授1、講師1、助教3」が定員となる。(※一部、例外規定あり)

 そして助教の下に「助手」というポストが新たに設置された。当然、給与は「助教」より低い。他の大学病院から転職する場合、職位も給与も下がることを受け入れる医師は、まずいないだろう。

岩本絹子理事長と丸義朗学長(東京女子医科大学120周年記念誌より)

あまりに診療現場の現実と乖離している「助教の定員3人」

 大半の大学病院では、専門医の資格を取得すると、「助教」の職位で常勤医に採用されるのが慣例だ。例えば、女子医大の麻酔科HPには、約30人の助教が掲載されている。この中には留学や関連病院に出向している医師もいるが、「助教の定員3人」という規定は、あまりに診療現場の現実と乖離していることが分かるだろう。

 当然だが、診療科によって患者数と必要なマンパワーは違う。一律に定員を規定するのはナンセンスの極みだが、基礎系学者の丸学長は「コスト削減」を優先させたのだ。

 長坂教授は、岩本理事長の目を見て必死に訴えかけた。