文春オンライン

2022/09/25

もし叫び声が聞こえたら即助けるぞ!

 現代日本の医師ですら、勝手な判断で患者の生死を決めたりしないはず。

 火葬場職員は、人の生死を自分の判断で左右するような、それこそ神のような存在ではもちろんない。普通の人だ。

「絶対に助からないので火葬場職員は気づいても火を止めない」という内容は、全国の火葬場職員に、そしてぼくに、「人殺し」と言っているようなものだ……。

「いや、でも本当にそうなったら、すごい勢いの炎なんですよね……?」とおっしゃる方もおられるが、ご心配なさらず。

 ほぼ100パーセント、皆さん棺に納まっておられるので、身体に直に炎が当たるまで、少し時間がある。点火して数秒、もし「ぎゃー!」と叫び声が聞こえたなら、ぼくだったら緊急停止ボタンを押して、即救助に向かうだろう。

 こうやって考えると、たしかにそりゃそうだと思いませんか? 

 そう、すごく普通のことなのだ。だが、火葬場という「よくわからない場所」のせいで、このような単純なことでさえ、知らない方からするとわからないのだ。

 元火葬場職員の下駄華緒さん ©石川啓次/文藝春秋

デマ動画と戦った成果

 改めてこの都市伝説を考えると、「生きたまま火葬」というワードは非常にセンセーショナルなことに気づかされる。

 ぼくは、人間は残酷な生き物であると感じている。たとえば人類の歴史のなかで、公開処刑はひとつのエンターテイメントとして需要があったし、現代でも、表向きは「残酷だ」「非人道的だ」と敬遠されつつも、実際このようなタイトルのYouTube 動画は、ぼくのように本当のことを伝える動画よりも、再生回数は圧倒的に多いのが実情だ。

 なので、どんどん残酷で衝撃的な内容を求める気持ちはよくわかるが、嘘は嘘なのでしっかりと否定しておきたい。

 そしてこういった衝撃的な嘘を主題にしたYouTube 動画に対する措置として、元火葬場職員として、「内容が間違っていますよ」という趣旨の動画を、何度か配信した。

 すると今、なんとそのような動画は激減したのである。

 まさかそんなに影響を及ぼすとは思ってもいなかった。

 この頃から元同僚や全国の火葬場職員たちから、好意的な連絡がよく来るようになった。

 ということは、皆やっぱり「違うのに……」と思っていたようだ。

その他の写真はこちらよりご覧ください。

最期の火を灯す者 火葬場で働く僕の日常 (BAMBOO ESSAY SELECTION)

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下駄 華緒 ,蓮古田 二郎

竹書房

2021年9月24日 発売

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