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 受賞は自身への影響も大きかった。

 店を続けようという、最後の後押しになったのだ。

「うすくち」の火入れをした頃は、もう店を畳むしかないという気持ちだった。が、その後に味噌の製造ラインが修理できた。少しでも夏の暑い盛りに発酵を間に合わせようと醸造を急いだ。そうして製品が造れるようになると気持ちも前を向く。「地球温暖化で残暑が続くので、味噌の発酵も何とかなるのではないかという気がしてきました」と話す。

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 そして、何より「ぜひ造り続けてください。山形屋さんの商品でないと、味が決まらない」という常連客の励ましは大きかった。勉強会で切磋琢磨し合った醤油蔵の仲間からは「また一緒に頑張ろう」という声が届く。そうした時の受賞だった。

天然醸造の味噌について説明する渡辺さん(山形屋商店)©葉上太郎

受賞をきっかけに相馬に新たな食文化の風を

「今回の受賞は私一人の力ではありません。支えてくれたお客さん、勉強会で励まし合った醤油蔵などの仲間。チーム福島で受賞したようなものだと感じています。ならば造れるだけ造り続けるしかない」と渡辺さんは決意を口にする。

 蔵を直す資金は相変わらずない。

 石蔵など四つの蔵のうち二つは今にも倒壊しそうなので、早急に壊さなければならない。残る二つも歪んだり、壁が落ちたりして全壊状態ではあるものの、自力で補修して残せば、醸造が続けられるのではないかと考えた。材料は購入して、作業は渡辺さん、42歳の従業員、蔵の面倒を長年見てくれている80歳の大工、78歳の渡辺さんの実父の計4人で行う。崩れた瓦は積み直し、雨漏りのするトタン屋根は補修剤やペンキを塗り直した。

80歳の大工が屋根のトタンを塗っていた(山形屋商店)©葉上太郎

「地震でまた壊れるかもしれません。でも、壊れたらまた自分達で直して、やれるだけやってみようと思っています」。渡辺さんは迷いが吹っ切れた顔付きになっていた。

 むしろ、「うすくち」の受賞で、相馬の食文化に新しい風を吹かせられるのではないかと感じている。

「常磐ものと言われ、相馬沖で獲れる白身の魚にはうすくち醤油がよく合います。ヒラメやホッキ貝が代表例でしょう。これまではカレイの煮つけなど、こいくちでしっかり味付けをした料理が相馬の味でした。今後は素材の味を引き出すうすくち醤油で、相馬の魚の新たな魅力も知ってもらう。それが誘客に結びつけば、地震からの復興に寄与できるだけでなく、汚染処理水の放出による風評被害に対抗する手段になるかもしれません」

 受賞は山形屋商店だけではなく、疲弊し消沈した相馬のまちにとっても、次への切り札になり得る。