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犯罪者に欠けている事前予見能力とは?

 非行少年の面接を行っていると「そんなことをしたら、すぐに捕まることくらいわかるだろうに」と思うようなケースはたくさんあります。彼らに共通しているのは「事前予見能力の乏しさ」です。つまり、「そのときだけ楽しければいい」「そのときだけ苦痛から逃れられればいい」といった短絡的な思考に支配されているのです。

 事前予見能力とは、非行・犯罪臨床の中でよく用いられる言葉で、いわゆる「先を読む力」のことです。少年非行の場合は、今現在の置かれた状況を理解する現実吟味能力も乏しいのですが、さらに乏しいのが、この事前予見能力になります。 

 私たちは通常、先を読みながら行動をしているものです。現在の行動がこの先どのような結果につながるのかを考えて、行動の方針や方法を決定しています。たとえば、いま電車に乗るのは「1時間後にどこどこへ到着する」という未来のための行動です。電車に乗るために動いているわけではありません。

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 時間軸をもう少し長くしてみましょう。いま電車に乗っているのは大学に行くためですが、大学に通って勉強しているのは、卒業後に教員になるため。こんなふうに、現在の行動が未来につながることを考えているわけです。いま電車に乗らなければ、どうなるか。今日の授業に間に合わないとどうなるか。先を読む力があれば、わかることです。

 しかし、現在から将来へのつながりを考えることができず、短絡的な行動をしてしまうケースがあるのです。ユカもそうでした。

 もちろん、ユカは自分がやっていることが犯罪だとわかっています。見つかれば大変なことになるのも理解しています。ただ、事前予見能力が育っていないため、極端に現在を優先するのが問題です。「いまが良ければそれでいい」と行動してしまうのです。

写真はイメージです ©iStock.com

「早くしなさい」はなぜダメなのか

「早くしなさい」

「さっさと片付けなさい」 

「いい加減、支度しなさい」

 子どもに対し、このような急がせる言葉を言ってしまう人は多いと思います。しかし、小さい子どもはみな事前予見能力が育っていませんから、なぜ急がなければいけないのかわかりません。

 事前予見能力は生まれながらに持っているものではなく、発達の中で身につけていくものです。親は「急がないと学校に遅刻してしまう」「約束の時間に間に合わなくなってしまう」と必要性を理解しているわけですが、子どもには難しいのです。

 ですから、「学校まで歩いて15分かかるから、8時には出ないと朝の会に間に合わないよね」「8時に家を出るためには、どうしたらいいかな」というように、早くするべき理由を伝えて考えさせなければなりません。

 これが、事前予見能力のトレーニングになります。