少年院の先生が行っている声かけの方法
ユカは、父親からやみくもに「早くしなさい」と言われて育ちました。早くするべき理由を説明しなかったのが良くなかったと言えます。「すぐやれ」「早くしろ」ばかりでは、自分で急げるようにはなりません。「早くしなさい」と言われればその場で何とかしようとはします。しかし、自分で判断することはできないままです。事前予見能力が育たず、常に場当たり的で後先を考えない刹那(せつな)的な思考になってしまいます。
「いつも16時くらいからお客さんが増えて忙しくなるから、その前にこれを終わらせておいてほしい」
「足りなくなると困るから、早めに発注しておいてほしい。発注して届くまで2~3日かかる場合があるんだ」
こんなふうに、なぜ急いでほしいのか説明するべきでした。忙しくて丁寧に説明することができなければ、あとからでも理由を伝えて、本人に考えさせなければなりません。急ぐ必要性を理解することで、自分で時間を見ながら動けるようになるでしょう。
本人に考えさせるという意味では、「いつやる?」「いまは何をする時間?」のように問いかける声かけはいいと思います。
親は忍耐力がいりますが、事前予見能力を育てるためにはこのひと手間ふた手間が大事なのです。
少年院の先生は、常に本人に考えさせる声かけをします。「この間も言っただろう。早くやれよ!」なんて言ったりしません。「どうしていまこれをやらなきゃいけないんだと思う?」と繰り返し問いかけながら物事を進めます。とくに事前予見能力が乏しい少年たちですから、「早くやれ」と言って何かをやらせたところで社会への適応がうまくいかなければ意味がありません。
逆算して考える習慣づけ
事前予見能力を育てるためには、日常の中で「逆算して考える」ことをさせればいいのです。大人は自然にやっていることですが、子どもは現在に集中しており、将来の目標から逆算することに慣れていません。
たとえば、夏休みの宿題を終わらせることを逆算して考えます。
「夏休みの宿題、いつまでに終わらせる?」
「夏休みは8月31日までだけど、30日までに全部終わらせる!」
「じゃあ、どのくらいのペースでやればいいか考えてみようか」
「計算ドリルと漢字ドリルは毎日どっちかをやれば大丈夫そうだな……。ヤバいのは自由研究かも! まずは何をやるか決めて、8月になったらすぐできるように準備する。まとめるのにも時間が必要だし」
旅行に行く予定があるなら、計画を考えさせるのもいいでしょう。情報を提供しながら、「何時に出発するのがいいかな?」というように問いかけます。
単純なことでかまいません。学校に行く準備でもいいのです。日常の中で、目的から逆算して現在の行動を考えるトレーニングをすれば、自然に事前予見能力は育っていきます。