子どもの犯罪や非行、問題行動の背景には、虐待や育児放棄、貧困などのわかりやすい問題だけが関係しているわけではない。実は、親がよかれと思って投げかけた言葉が「呪いの言葉」となって子どもの未来を壊してしまう場合も多いのだ。
ここでは、1万人の犯罪者を心理分析してきた犯罪心理学者・出口保行氏の著書『犯罪心理学者が教える子どもを呪う言葉・救う言葉』(SB新書)から一部を抜粋。母親に「頑張りなさい」と言われ続けたナオトが犯してしまった犯罪行為を紹介する。(全2回の2回目/1回目から続く)
※守秘義務の関係上、本記事の事例は事実に基づいたうえで一部改変しています。
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「頑張りなさい」と言われ続けたナオトの変化
ナオトが5歳の頃から、両親はケンカばかりしていた。父親は自動車の営業をしていたが、営業成績が上がらず給与が低かったので、母親がしょっちゅうなじっているのを聞いた。ナオトにとっては、小さなことでも目標達成をするとお小遣いをくれたり、何かとかばってくれるやさしい父親だ。
しかし、母親からすると「うだつの上がらない、能力が低い男」であるようだ。「お父さんみたいになっちゃダメだからね」と繰り返し言われた。そのうち父親は家に帰らなくなり、他の女性と生活をしていることがわかった。そして、ナオトが10歳のときに離婚した。
以来、ナオトは落ち込むことが多くなった。もともと勉強も遊びも集中することがあまりない。成績もよくない。頑張らなければいけないと思うものの、成果を出せない自分が情けなかった。
「そんなんじゃお父さんみたいになるよ。あんなふうになったらおしまいよ」
そう言って母親は「勉強頑張りなさい」と繰り返すのだった。
小学6年生のとき、担任の先生が親身になって相談にのってくれた。
「ちょっとずつでいいんだよ。成績を上げる努力をして、それがわかればご家族もきっと理解してくれる」
ナオトは予習をして授業にのぞむなど少しずつ努力をした。先生が褒めてくれるので、ものすごく嬉しかった。努力の結果は成績表にもあらわれ、それまでどうしても2しかとれなかった国語が3になった。
「やればできるんだ。少しは褒めてもらえるかもしれない」
そう思って報告すると母親は、
「3で喜んじゃいけない」
「小学生のうちに国語ができるようになっておかないと中学で苦しむよ」
内心はほっとしているのだが、もっと頑張ってほしいという気持ちで厳しくあたるのだった。ナオトは心底がっかりした。頑張っても評価してもらえないんだと思い、それ以来コツコツ努力することをやめてしまった。