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無気力になったナオトが虜になったもの

 その後、高校はなんとか卒業したものの、何に対しても前向きな気持ちが起きない。先生に言われるままに機械メーカーに就職したが、3か月で離職。家にひきこもってゲームをする毎日だ。

 母親は「だから勉強しろと言ってきたのに」「どうしようもないクズになった」などと叱責ばかりする。ナオトも「このままではいけない」と危機感を持ちつつも、「お父さんのせいだ。家を出ていかなければこんなことにならなかった」と原因を父親に求めるようになっていった。

 そんなとき、コンビニで中学時代のゲーム仲間のタケルに会った。平日の昼間にだらしない服装でコンビニに来ているタケルも、やはり無職でゲームをしながら過ごしているとのことだった。ふたりはすっかり意気投合し、タケルのアパートに遊びに行くと「気持ちがラクになるものがあるぜ」と教えられたのが大麻だった。

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「外国じゃ普通だし、副作用もないし。他はともかく、大麻は大丈夫」

 ナオトはすぐに大麻の虜(とりこ)となった。大麻を使うと、あっというまに多幸感につつまれ、悩んでいた自分がバカらしく思える。そして、自ら売人に接触し、単独で使用するようになっていった。

言葉は受け手によって180度変わる

 ナオトは母親から「頑張って」と繰り返し言われていました。「頑張って」は、一般的に応援の意味で使われる言葉です。しかし、ナオトは「応援してもらっている」とは感じませんでした。むしろ、否定的な言葉としてとらえていました。とくに父親に対する悪口をさんざん聞かされており、自分が父親と重ね合わされ同一視されていると感じていたので、「頑張って」は自分を否定する言葉にしか聞こえなかったのでしょう。

「頑張れないおまえはダメだ」「もっとやる気を出さないとダメだ」と言われている気がしたのです。

「頑張って」のように言葉自体はポジティブなものであっても、被害感や疎外感が強い子は否定的に受け止めます。非行少年によく見られることです。ひねくれてしまって社会を斜に構えて見ている状態では、励ましや応援の言葉も「バカにしやがって」というようなものです。

 そもそもなぜ被害感や疎外感が強くなったかといえば、親子間における日ごろのコミュニケーションに問題があるわけです。ナオトの場合、父親のことはさておいても、「あなたのことを大事に思っている」ということが伝われば、また違った受け止め方をしたでしょう。

 ナオトのような非行少年の親でも、別に暴言を吐いたこともないし、いい言葉をたくさん言っていると思っている人はいます。しかし、大事なのは子どもの主観的現実です。どんな言葉を使うかも大切ですが、子どもがどう受け止めているかに配慮しているかどうかも大切なのです。