中立のリアリストか、はたまた中国共産党のデマゴーグか? 竹中亮氏の実像に迫る、ルポライター・安田峰俊氏による「『親中日本人』の言い分を聞いてみた」(「文藝春秋」2022年11月号)を一部転載します。

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竹内亮は「デマゴーグ」か?

 中国の外交官らが、西側諸国に対して攻撃的な言動をおこなう「戦狼外交」が盛んな昨今。これに並行して目立つのが、中国に迎合し、体制を積極的に肯定するかのような言動をとる日本人たちの存在だ。

 戦狼外交で有名な中国総領事と活発に交流イベントをおこなう学生団体や、総領事の発言をSNSで拡散したり夕刊紙にインタビュー記事を寄稿したりしている複数のジャーナリスト、上海と新疆に拠点を置き中国政府を肯定する情報発信を続ける企業家など、事例は数多い。

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 中国の歴史や文化のみならず、共産党政権やその政策も好意的に評価する――。日中両国の国交が成立した五十年前、毛沢東体制を賛美していた日中友好人士の時代以来、久しぶりに生じた現象である。

 そのなかでも大物が、江蘇省南京市在住の映像ドキュメンタリー監督・竹内亮(43)だ。近年、習近平政権のゼロコロナ政策の「成功」をはじめ、中国当局の主張を補強する映像作品を続々と発表。中国社会では広く知られた日本人である。

竹内亮氏

「日本って、ニュースが大げさじゃないですか。ここは毎日モノがないわけではないんですけど」

「普段とそんなに変わらないよ!」

 2022年4月、竹内はロックダウン中の上海の外国人を特集したこんな動画を発表した。地区によっては食糧不足で混乱が広がる状況でリリースされた脳天気な内容に、在中邦人の間では「どこに向けて作品を作っているのか」と苛立つ声が上がった。だが、本人はどこ吹く風だ。

 往年の日中友好人士の動機には、社会主義への理想や日本の対中侵略への贖罪意識があった。ならば令和時代の「親中日本人」を動かす理由は何か。直接その声に迫った。

安田峰俊氏(撮影/郡山総一郎)

「政治的に正しい」映像監督

 竹内は2014年、南京市で映像制作会社「和之夢(ワノユメ)」を妻と設立。日中両国の風土や人々を紹介する映像を配信してきた。だが、中国発のコロナ禍が広がった2020年以降、当局との距離を急速に縮めていく。

 最初の契機は、同年3月に南京市のコロナ対策の成功を伝えた動画に市のトップ(党委員会書記)である張敬華が感謝の意を示したことだ。

 ほどなく竹内は、同年6月に武漢市のコロナ復興を描いた『好久不見、武漢』(お久しぶりです、武漢)、翌年1月には中国が防疫政策に成功してコロナ後の時代に入ったとする『後疫情時代』(アフターコロナ時代)などの映像作品を次々と発表する。いずれも政策のポジティブ面を伝え、初動の混乱で生じた市民の被害やロックダウン下の人権侵害にはほぼ言及しない内容だ。