党の力で国民的有名人になる誘惑

 私が見る限り、中国の対外プロパガンダは西側社会に対してはあまり効果がなく、主張は内外の中国人にしか届いていない。また「大外宣」という言葉自体、海外中国語メディアなどではバズワード的に使われており、厳密な定義は不明確だ。ただ、中国共産党がプロパガンダに熱心で、相当なリソースを投入していることも確かである。

「党に必要とされれば、一夜にして天地がひっくり返るほど毎日が変わる。その誘惑に抗うことは難しい。さえない一般人が、いきなり有名人にしてもらえれば、虚栄心を満たせるし、金銭的にも潤う」

 日本国内に在住するようになった(前回記事参照)、中国のある大手メディアの元幹部は、私の取材にそう話す。一般人が党の宣伝力によって全中国レベルの有名人になるのは、かつての雷鋒(1940~1962:人民解放軍の模範兵士)の時代から中国ではよくあることだ。

ADVERTISEMENT

「もっとも、党もバカではないから、支援したい人物に直接カネを渡したりはしない。(有名にさせたい)相手を援助するときは、当局と関係が深いどこかの企業を間に噛ませることになるんだ」(同前)

中国政府との距離の近さから国際的な制裁を受けているファーウェイを取材した作品について、宣伝する竹内のツイート。

 ちなみに竹内は、近年国際的な制裁を受けている中国の通信機器大手ファーウェイを題材として現在まで7本のドキュメンタリー作品『華為的100張面孔』を制作。だが、本人が密着取材で「社内に潜入」「真相に迫った」と主張している作品の制作費が当のファーウェイから支出されていたことが、既に当事者への取材で判明している。

あなたに中国人の友人はいますか?

 さて、私は10月7日発売の『文藝春秋』11月号に 「『親中日本人』の言い分を聞いてみた」と題した記事を寄稿し、そのなかで竹内についても言及している。

 取材にあたっては、竹内と妻の趙萍に直接2時間にわたってインタビューし、ファーウェイとの関係や、中国の体制に政治的に接近することの危険性を認識しているか、習近平体制が崩壊した後も自分たちは無事だと思うかといった質問をおこなった。そのなかで、長男を人民解放軍式の軍事サマーキャンプに送ったことも話題に出た。やり取りを以下に引用しておこう。

──息子を軍隊サマーキャンプに入れたことは?

 

趙萍 あなたに中国人の本当の友人はいますか? 中国では当然です。

 

竹内 なんでも政治に結びつけるのは間違いだ。息子を厳しく育てたいと思ったら、たまたま身近にそれがあった。問題とは思いません。

 本当に問題はないのか。より深い事情については、ぜひ本誌の記事をお読みいただきたい。

2022年9月17日、有明の竹内のファンイベント会場に足を運んだ私(中央)と、記念撮影に応じてくれた竹内(左)。なお右にいるのは竹内作品に初期から参加している俳優の阿部力である。