ラフで軽い「日中の架け橋」だった
竹内のプロフィールを簡単にまとめておこう。千葉県我孫子市出身の彼は専門学校を卒業後、大手テレビ局の下請けをおこなう制作プロダクションに勤務し、同社の社員の立場でテレビ東京「ガイアの夜明け」や、NHK「長江 天と地の大紀行」などのドキュメンタリー番組の制作に携わった。
やがて仕事のなかで知り合った中国人女性・趙萍と結婚し、中国に移住。2014年に妻の実家がある南京市で、本人の映像制作会社「和之夢」を設立した。翌年からは在中日本人や在日中国人を主人公とした映像シリーズ『我住在這里的理由』(私がここに住む理由)のウェブ配信を開始し、じわじわと評判を広げた。
中国移住からしばらく時期の竹内を知る在中日本人に話を聞くと「ノリは軽いけれど頑張っていた人」といった評判が多い。実際に彼の取材を受けた人には、「軽さ」に不快感を覚えたと語る声もあったが、そこは個々人の受け止め方の問題だろう。
テレビ業界出身者らしいラフな言動と服装で、日本の映像制作・編集技術を用いつつ、中国人社員を使いこなして中国語でドキュメンタリーを作る──。そんな竹内の仕事が、新しいタイプの日中の架け橋となったことも確かだった。しかし、彼の立ち位置はやがて変わっていく。
日本人はテレビに洗脳されている?
“よく日本人からは、「日本は民主主義で、中国は社会主義。選挙のない中国人は可哀想だ」と言われるが、有名なだけで選ばれた人たちが国や地方の舵取りをする、形骸化したシステムが、本当に中国よりも優れているといえるのだろうか。”
“多くの日本人(の中国観)は日本の大手マスコミ、特にテレビに洗脳されてしまっている、とつくづく思う。”(※カッコ内は筆者注)
これらは竹内が2022年3月に日本国内で刊行した著書『架僑 中国を第二の故郷にした日本人』(KADOKAWA)の記述だ。そもそも、民主主義の反対は社会主義ではないと思うが(「社会民主党」はどうするんだ?)、さておき日本では賛同されにくい意見だろう。
「近年、日本のテレビ局の連絡を『中国の悪口を言うから』と拒否したり、過去に中国ドキュメンタリーを多く手掛けた旧知の同業者に『あなたは中国のよくない部分ばかりを撮る』と話したり。姿勢が変わったと思う」
制作プロダクション勤務時代から竹内を知るテレビ関係者の1人はそう話す。竹内の言動や作品内容が政治色を帯び、中国当局との距離感が明らかに縮まったのは、コロナ禍以降のことである。