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 中国は一人っ子が多く、加えて児童教育が学習偏重型で情操を軽視しがちなこと、両親が多忙ゆえに育児を祖父母やベビーシッターに丸投げしがちであることなどから、ワガママだったりマナーが悪かったりする子ども(熊孩子:xióng hái zi)が多い。こうした我が子を矯正するため、中国の親世代が選択しがちなのが、軍事サマーキャンプに放り込むことなのだ。

江蘇省の軍事サマーキャンプ「蘇州野狼軍事夏令営」のホームページより。軍事教練で子どもを躾ける手法は、個人的には藤子不二雄Ⓐのブラック・ユーモア短編『ひっとらぁ伯父サン』を連想してしまうのだが……。

 キャンプ中、子どもたちは迷彩服に身を包んで軍歌を歌い、軍人上がりの教官に怒鳴られながら「紅軍の苦労を学ぶ」。そして行進や匍匐前進、射撃・格闘訓練、レスキュー訓練などを体験するなかで(参加者同士のサバイバルゲームや戦車の試乗などのレクリエーションもある)、父母や党や国家への感謝の気持ちを叩き込まれる。中国語で「感恩教育」というやつだ。

21日間で約19万円の「ガチ」コース

 竹内が上記の微博の投稿をおこなった後、当時中学入学(中国は秋学期入学)を控えていた長男を入隊させたのは、蘇州野狼軍事夏令営というキャンプであった。

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 トップに「永遠跟党走」(永遠に党とともに歩む)と決まり文句が書かれた同施設のホームページによると、設立は2010年。人民解放軍で5年以上勤務した元軍人のもと、厳しい訓練で児童の生活習慣を改め、礼儀を叩き込む教育が売りである。

 コースは数日間からあるが、竹内夫妻が選んだのは、21日間9580元(約19万円)という、時間的にも金銭的にもかなり本気度の高いコースだ。

長男のコース修了後。竹内は微博の投稿はもちろん、日本向けの情報発信で用いているツイッターでも「(息子が)成長して帰って来た」とツイートしている。成果に満足したらしい。

 もっとも、いくら現代中国では「当たり前」でも、日本人の感覚……もとい、ごく標準的な人権感覚を持っていれば、12~13歳の子どもに(本人が強く望むならともかく)わざわざ迷彩服を着せて銃の撃ち方を教えたり、反動派の撃滅や毛沢東思想の素晴らしさを称える軍歌を斉唱させたいと思う親は多くないだろう。

 ましてや人民解放軍は、1989年の六四天安門事件で、体制に反対した自国民に銃や戦車を向けて数千人(諸説あり)を殺害した軍隊だ。中国の体制や価値観をよほど肯定的にとらえていなければ、わざわざ我が子にその教育を受けさせたいとは考えない。ならば、19万円を支払ってまで我が子をそこに行かせた竹内は、いったいどういう人物なのか。