文春オンライン

〈『ドラゴン桜』監修者の実話〉成績底辺でいじめられっ子…人生に絶望する16歳の僕を東大に導いた“ある教師”の「とんでもないひと言」

『それでも僕は東大に合格したかった』より #1

2022/10/23
note

「あれは、本音だったな」

 師匠は言った。

「ああいうのは普通、本心で言うものじゃない。本当はそう思ってないけれど、否定してもらいたくて言ったり、気を引きたくて言ったりするものだ」

ADVERTISEMENT

「まあ、そうでしょうね」

「でも、お前のあれは、本心だったな」

 そうだ。本気でそう思っていたことを、師匠にぶつけただけだったのだ。僕は本気で、自分は変われないと思っていたし、自分には何もできないと思っていたのだ。

「お前のあれは掛け値なしの本音で本心だった。だから俺も本気でぶつかることにしたんだ」

©iStock.com

「お前は、このままでいいと思っているのか?」

「それでいいのか? お前、本当にそのままでいいのか?」

 僕の言葉を全部聞き終わって、師匠は、そんな風に訊いたのだ。

「『変われないと思う』というのはわかった。『自分には何もない』というのもわかった。でも、まだ1つ聞いてないことがある。お前は、このままでいいと思っているのか?」

 どんなに年月が経っても、この質問だけは、多分、ずっと覚えているのだと思う。

「お前、本当にそのままでいいのか?」

 そんなの、答えは決まっている。決まっているけれど、そんなの不可能なのだ。

 僕にはできない。それを、これまでの人生で嫌というほど味わってきたのだ。

「人間は誰でも、実は1本の線で囲まれている」

 何も答えない僕を尻目に、師匠はそんな風に語り出した。

「取り囲むように、1本の線がお前の周りにはある。なんという名前の線だかわかるか?」

 僕は首を振る。すると師匠はこう続けた。

「『なれま線』という線だ」

 今考えるとダジャレだが、その時の僕にはもう、そんなツッコミを入れる気力はなかった。

「幼稚園の頃、お前はいろんなものになりたかったはずだ。なれると信じていたはずだ。サッカー選手になれると思っていた。プロ野球選手になれると思っていた。宇宙飛行士にもなれると思っていたし、会社の社長にもなれると思っていた」

 不意に僕は、小さい頃サッカー選手になりたかったのを思い出した。キーパーをやって6点入れられてからその想いは消え去ったわけだが、確かに僕はそんな風に思っていた。