「多忙期は13連勤が月2回、連休はなし」
「少し前まで数年間在籍していましたが、月8日の休みなんてありえませんでした。多忙期は13連勤が月に2回あったりしましたし、連休も取れませんでした。休みたい場合は相当強く上司に訴えないといけませんでした。そうしないと、次々に仕事を入れられてしまうんです。
しかも1業務につき15時間程度は拘束される。睡眠時間が4、5時間しかとれないこともありました。勤務現場の多くは遠方で、飯能の車庫から遠いため拘束時間は長くなります。予算が低い仕事が多かったからか、待機場所もなく路駐しなないといけないことが多かった。周囲に配慮してエアコンが使えずに、熱中症で倒れる運転手もいました」
別の元社員Bさんもこう訴えた。
「日帰りの観光なんかが入っちゃうと、午前4時から午後11時までの19時間勤務。翌日は休みや午後からの短い仕事があてがわれるのが普通ですが、翌日も同じような仕事が入ることもありました。
Googleマップの口コミに、速度超過や乱暴な運転の目撃情報が書き込まれていますよね。これも過酷な勤務だからみなさんそのような運転になってしまうんです。次の日に備えて、少しでも寝るために早く帰りたいんですよ。乗務後の洗車も、洗車機はよほどのことがないと使わせてもらえず、これだけ大きなバスを運転手が手洗いしていましたから」
元社員らによると、運転手の研修制度にも疑問を感じることがあったようだ。
道路運送法で定められている“必須研修時間”
今回、横転事故を起こし、自動車運転処罰法違反(過失致傷)容疑で静岡県警に逮捕された野口祐太容疑者(26)について、美杉観光の吉田社長は会見でこう話している。
「トラック会社やバス会社の勤務を経て、昨年の7月に入社した。小さい車から始め、送迎を経て今年の春頃から観光バスの運転をするようになった。今回のルートは初めての乗務だった」
乗務経験に関係なく、バス会社は入社した貸し切りバスの運転手に対し、座学10時間、乗務20時間の研修をすることなどが道路運送法の規定で定められている。しかし数年前まで美杉観光に務めていた50代の運転手Cさんはこう明かす。
「私は観光バスの運転経験なしで美杉観光に入社しましたが、受けたのは1日1、2時間の実務研修を1週間だけ。座学はほとんどありませんでした。
私はもともと地方の営業所での採用でしたが、東京での勤務を命じられ上京。翌日に観光バスに乗務しました。土地勘もなく、首都高も運転したことがありませんでしたが、『習うより慣れろ』といった感じでした。同僚運転手も地方営業所で採用されて関東に来て、すぐに長野や東北の日帰りスキーツアーの担当になった。『怖くて仕方が無い』と言っていました」
前出のAさんとBさんも、美杉観光で受けた研修は不十分だと感じていたようだ。