10月13日、富士山五合目を下り始めた静岡県小山町の県道で起こった観光バスの横転事故。専門家らによると、フットブレーキの多用で高熱が発生しブレーキの効きが悪くなる「フェード現象」を起こしてしまった運転手の過失が強く疑われるという。

 他社の観光バス運転手によると、フェード現象防止策は「基本のキ」。しかし今回の事件を、運転手による単なる初歩的なミスに収れんしてしまっていいのだろうか――。

事故現場の様子 ©時事通信

 事件発生後、10月15日に《観光バス横転》「豪腕で事業急拡大。数年前に渋谷の豪邸へ」やり手社長の“本当の評判”と逮捕運転手(26)が置かれていた“ブラックな環境”を公開した。すると公開直後から、編集部にはバス業界関係者から多くの情報提供が寄せられた。そのほとんどが、観光バス業界の過酷な実態を訴える内容だったのだ。

ADVERTISEMENT

続々と寄せられた観光バス業界からの「悲鳴」

「ろくな研修もなく現場で不安を感じた」

「勤務が過酷で4時間睡眠が続く」

「待遇が悪すぎて生活が苦しい。優秀な人ほどすぐに辞めてしまう」

 文春オンライン取材班は、バスを運行していた「美杉観光バス」(埼玉県飯能市)の複数の関係者らにも取材。印象的だったのは、元社員らが「自分たちの経験と、会見で社長が話していた内容が全然違う」と口を揃えたことだ。

美杉観光バスでの家宅捜査 ©共同通信

 事故発生当日、同社の吉田典弘社長はツアーを企画した「クラブツーリズム」の酒井博社長とともに記者会見を開き、運転手の勤務実態などについて語っている。

 大手紙社会部記者が解説する。

「どこか他人事のようなクラツーの酒井社長とは対照的に、美杉観光の吉田社長は終始申し訳なさそうな態度でした。人命が失われているので当たり前ですが、記者の質問にはすべて答えていました。『運転手は真面目な勤務態度で当日飲酒などの問題も無い、車両にも異常はなかった』といった説明をしており、事故の予想はできず会社として未然に防ぎようがなかったと考えているようでした」

 会見に出席した記者から運転手の勤務体系について問われると、吉田社長は「運転手の休みは月にだいたい8~10日」と回答。しかし文春オンラインの取材に応じた元美杉観光のバス運転手の男性Aさんは「ありえない」とこう訴えるのだ。