刑事の父(川瀬陽太)と暮らし、交差点で一人サイレントスタンディングを始める女子高生の山吹(祷キララ)。韓国から日本へ流れ着き父親の借金を返すため採石場で働く元騎手のチャンス(カン・ユンス)。岡山県真庭市を舞台に、地方に住む人々の悲哀と抵抗のドラマを紡ぐ映画『やまぶき』(11月5日公開)は、日本映画として初めてカンヌ国際映画祭ACID部門に出品されるなど大きな評価を得ている。監督は、真庭市でトマト農業と映画製作を兼業する山﨑樹一郎。

 映画の発想源となったのは、現代社会への強い怒り。東京中心の資本主義社会において、地方に生きる人々はどのような生活をし、どんな思いを抱いているのか。実際に真庭市で生活する山﨑監督は、多様な人々の生き方と、静かな抵抗のあり方を描き出す。

 農業と監督業を並行して続ける意味。真庭で出会ったユニークな経歴の韓国人俳優のこと。フランスとの共同製作のあり方。映画『やまぶき』製作の背景について山﨑監督にお話をうかがった。

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生きていくためには映画よりまずは野菜を作ったほうがいいかなと

――山﨑監督は、2006年に岡山県の真庭市に移住されたそうですが、それは映画を撮るための移住だったんでしょうか?

山﨑 いえ、当時は映画を作ることは考えていませんでした。元々京都の大学に通いながら自主映画の製作や学生映画祭の企画運営をしていたんですが、卒業後の進路を考えるうち地方で農業をしようと決めました。京都に居続けるのも大変だし、東京に行って映画を作ることも考えましたが、生きていくためには映画よりまずは野菜を作ったほうがいいかなと(笑)。父親の実家がある真庭市で、当時高齢の祖母が一人で生活していたので、その面倒を見るという名目もあり、そこに移住し就農という形でトマト農家を始めました。

――真庭に住んでいたお祖母さんがトマト農業をされていたんですか?

山﨑 いえ、僕が完全に一人で始めたんです。使わなくなった畑にビニールハウスを建てるところから始めました。といっても一人でできる小規模な農園で、年々映画のほうが幅を広げ始めたこともあり、今はできる範囲でこぢんまりとトマトを作っています。

――そこから映画作りを始めたのはどういう流れだったんですか?

山﨑 真庭に移住してからは、映画を見る機会が無くなってしまったんですね。近くに映画館はないし、映画の仲間どころか友達もいない。そこでまずは映画の上映会などを企画してみた。その中でポツポツと仲間ができ、それなら何か短い作品を作ってみようと、2008年にトマト農家を題材にした短編『紅葉』(8)を作ったのが始まりです。