そこで、未和さんのパソコンや携帯電話などからわかる労働時間記録との対照表を作成し、弁護士のところに再度相談し、労災の可能性が極めて高いことから労災申請することに決めた。遺族側の計算によれば、亡くなる直前1ヶ月間の残業は月209時間、その前1ヶ月間は188時間にものぼっていた。労災申請を10月に行い、翌2014年5月、渋谷労働基準監督署が未和さんの死を長時間労働による労働災害、つまり、過労死と認めた。
NHKが勤務記録を提出したものの…
未和さんの遺族は、亡くなった3ヶ月後に労災を申請しており、他の過労死事案と比較すると、かなり短期間に行動していることがわかる。もし遺族が未和さんの死を周りの人に話しておらず、またそのようなアドバイスをする同僚に出会っていなければ、未和さんの死が過労死だと社会的に認知されることにはならなかったかもしれない。
そのうえで、今回、会社側が比較的正確な勤務記録を遺族に提出してきたことも重要な点の一つである。実は、遺族が会社側に勤務記録等の資料の提出を求めても、それに応えるかどうかはあくまで「任意」であるため、提出を拒否する会社がほとんどだ。
仮に提出しても、出勤簿にはんこが押してあるだけで、労働時間の記載のない不十分なものや「9時から17時」と定時の時間が連なっている改ざんされたものが出てくる場合が多い。というのも、会社側には正確な労働時間記録を提出すると労災だと認定される可能性が出てきてしまうため、隠蔽したほうが経済的にメリットがあるからだ。このようにして、多くの過労死が闇に葬られる。
この点について、守さんは「確かにデータを捏造する可能性はあると思っていましたが、それでも天下のNHKがそんな姑息なことはしないだろう、大丈夫だろうとも思っていました。だから証拠保全(裁判所を通じて強制的に証拠となるものを入手すること)をやろうとは考えませんでした」と語っている。
結果として、NHKは資料の提出に応じたが、大企業であっても証拠の改ざんや破棄は頻繁に行われている。また、意図的な改ざんまでいかなくとも、自己申告などで適切に労働時間を管理していないことで、正確な時間がわからない場合もある。証拠を受け取れたことも、「偶然」だったかもしれない。
ここまでは、未和さんが亡くなってから労災申請に至る経緯を見てきたが、後半では、事件の公表に至った経緯やNHKの対応についてみていこう。