では、ご遺族はどのようにして、未和さんの死の原因が「過労」や仕事にあると認識するに至ったのだろうか。それは「偶然」によるものであった。
「それは過労死じゃないか」と弟の職場の先輩から示唆される
亡くなった原因すらわからないなかで、「過労死」の可能性について考えるようになったのは、あくまで偶然の出来事であった。
未和さんの弟さんが自分の働く会社で未和さんの急死について触れたところ、話を聞いていた先輩から「それはひょっとしたら過労死じゃないか」と言われたという。その話を家族で共有したところ、たしかに記者は仕事が大変で忙しかったかもしれないと過労死の可能性を疑い始めた。
このように、周りの人のふとした一言から、労働災害や過労死の可能性を考え始めるケースは珍しくない。離れて暮らしていれば、そもそもどのくらい長時間働いていたのかを把握することすら難しい。病死や事故死といったさまざまな可能性があるなかで、一直線に過労死と疑う遺族はそれほど多くないだろう。
しかし、今回のように弟の同僚の一言や、以前の記事で報じた過労死した51歳男性の家族のように、契約している保険会社の営業員によって働き方を疑い始め、実際に行動に移すことができる可能性が生まれる。
「過労死かもしれない」と考えたご遺族は、未和さんの使っていた携帯電話を調べることにした。すると、夜中の送受信記録などをみて、午前3時あたりまで働いている記録が見つかった。「こんな時間まで仕事をしていたのかと驚きました。同時に、これは過労死の疑いが濃いなとも思いました」と守さんは話す。
亡くなった2013年7月には休みが1日もなかった
そして、もし過労死であれば早く動いたほうがいいと考え、ネットで「過労死」と検索した上で、過労死弁護団所属の弁護士に相談することになる。弁護士からは、「パソコンや勤務表など勤務記録に関わるものが必要だ」とのアドバイスを受けて、守さんらはNHKにそれらの提出を求め、NHKも了承した。そして、守さんがブラジルでの勤務を終えて帰国した9月、NHKから資料を受け取った。
NHKが提出した労働時間記録によれば、亡くなった2013年7月には休みが1日もなく、勤務表の退勤時間は25時(午前1時)や27時(午前3時)と記されていた。守さんらは長時間労働の実態に驚きながらも、この自己申告の勤務表には25時などとあまりにキリのよい数字しか記載されていない点にも注目し、この資料の信憑性も疑ったという。
そもそも、これ以上働いている可能性もあったのだ。例えば、勤務記録には午前1時に帰宅したことになっているが、携帯電話には午前3時まで働いていた記録が残っていたところがあった。