「おらクラッチ遅ぇよ!」

 車内に響く、けたたましい怒声。次の瞬間、教官は教習生の左脚をバインダーで叩いた。これは昭和の話ではなく、現在教習所に通う10代男性の体験である。

 かつて「パワハラの温床」と呼ばれることも多かった自動車教習所は、少子化の波にもまれ、今では教習生を「お客様」として扱う教官も増えているという。しかしながら、競合が少ない地域や、新陳代謝が起きにくい環境では、上のような「昭和の遺物」ともいえる高圧的な教官が幅を利かせている例もあるようだ。

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 そこで、今回は免許取得から間もないドライバーや、教習生へのインタビューを通じ、「ヤバい教官」についての話を聞いた。

「バインダー」で教習生を威圧

 はじめての運転に不安を抱く教習生にとって、免許取得へのハードルとなるのが「高圧的な教官」である。現在教習カリキュラムの終盤に差しかかっているAさん(10代男性)は、冒頭に挙げた「バインダー教官」について以下のように証言する。

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「40代か50代の男性教官で、やたらとバインダーで威嚇してくる教官がいます。言葉遣いも悪く、『おらクラッチ遅ぇよ!』と怒鳴ってバインダーで左脚をペシペシ叩いてきたり。曲がる場所を指示するときも、『そこ左』と雑な言い方をして、わざわざバインダーを前の方に掲げるので、いつも視界の邪魔なんですよね。

 しまいには、坂道発進でミスをして下がってしまったとき、『だからぁ!』と叫んでバインダーを自分の膝に叩きつけて。ビックリしてエンストすると、大きなため息をつきながらバインダーを足元に放り投げてしまいました。

 もはや最近は、怖い気持ちを通り越して面白くなってきて、『そういう芸風なんだ』と思うようになりましたね」

 強力な武器を手にして気が大きくなる人間と同様、その教官にとっては、バインダーがなんらかの「力の象徴」なのかもしれない。体罰は論外として、威圧的な態度が指導効果につながっていればまだ救いはあろうが、Aさんによれば「怒鳴るばかりでまともな説明はしてくれない」とのことだった。