文春オンライン

特集観る将棋、読む将棋

「書くのは苦しいですよ。でも…」将棋のプロである棋士・女流棋士が“観戦記”を書く理由とは

「書くのは苦しいですよ。でも…」将棋のプロである棋士・女流棋士が“観戦記”を書く理由とは

勝又清和七段×藤井奈々女流初段 観戦記者対談 #1

2022/11/11
note

 この観戦記の書き方を教わった話が、勝又七段が第25回将棋ペンクラブ大賞観戦記部門大賞を受賞したとき(「第83期棋聖戦五番勝負第3局 羽生善治―中村太地」)の「受賞のことば」として『将棋ペンクラブ通信』に寄稿された原稿にあった。一部をご紹介したい。

《今回の観戦記は「ノートの半分に線を引き、左半分に自分から見て左側の対局者の様子を書き、右半分は右の対局者を書く」という、忠幸さんに教えて頂いたメモの仕方がとても役にたった。震える手つきでペットボトルのフタを空けた中村六段の姿も、羽生三冠のつぶやきも、このメモのおかげで文章に残せた。今回の観戦記は忠幸さんを満足させられただろうか?》

 こうやって先輩から技を教わり、また技を盗んで観戦記者としての技を磨いていくのだろう。

〆切は早すぎても遅すぎても難しい

――どの対局を担当するかはどうやって決まるんですか? 記録は、三段になった奨励会員は好きなのを選べるといった話も聞きますが。

勝又 だいたい担当記者の方から「この日、空いてますか?」という話がきますね。

――では、新聞社のオファーによって決まると。そのオファーは、どれくらい前にくるんですか?

ADVERTISEMENT

勝又 いろいろですね。1カ月前からくることもあれば、急にくることもある。今、トップ棋士のスケジュールはタイトなので、対局が急に決まることも珍しくないんですよね。

藤井 締切も急に決まります(笑)。2日後になったこともありました。

勝又 へー。産経新聞はゆとりをもってやっているので、そこまで急なことはないですね。ただ、遅すぎてしまうことがあって、対局のときと掲載されるときでは状況がちがう場合がある。そうなってくると、改めて取材をしたりもしますね。

 

――早すぎても遅すぎても難しいところがあるわけですね。対局の前には、なにか取材をされますか?

勝又 私は、事前の取材はしないです。そういう意味では、かなりぐーたらな観戦記者ですね(笑)。

藤井 私は、もうそれしか材料がないのでやります。まずは連盟の手合課さんのところに行って、先生方の個人情報を教えてもらいます。

――それで事前にメールなどを送るわけですか。どういったことを聞くんですか。対局に向けた心境とか?

藤井 そうですね。あとはしょうもないんですが、関東の先生だったら「関西に来て買うお土産とかありますか?」とか、そんなことも聞きます。

後日のメールはしない理由とは

――記事に使わないなと思いつつも?(笑)

藤井 いや。でも一度、近藤誠也先生(七段)が、「りくろーおじさんのチーズケーキ」って答えてくださって。全部将棋でできているようなイメージの先生が甘党だったんだと思って、記事に入れたこともあります。

――その事前に情報を入れたほうがいいよというのは、読売新聞の吉田さんのアドバイスですか?

藤井 むしろ後日のメールをするなって言われました。

――なぜ後日のメールはいけないのでしょうか。

藤井 たとえば渡辺先生(明名人)などは、「感想戦で全部言うから、後から聞かないでくれ」って公言なさっているんですよ。こういう棋士の方が他にもおられるので、後日メールは基本しないようにというアドバイスをいただきました。