文春オンライン

特集観る将棋、読む将棋

「書くのは苦しいですよ。でも…」将棋のプロである棋士・女流棋士が“観戦記”を書く理由とは

「書くのは苦しいですよ。でも…」将棋のプロである棋士・女流棋士が“観戦記”を書く理由とは

勝又清和七段×藤井奈々女流初段 観戦記者対談 #1

2022/11/11
note

――これは棋士としてどういう心境なんでしょうか?

勝又 ひとつはAIの影響ですよね。AIによる正解はあるんでしょうが、対局者も考えて指しているんだから、あとからAIで調べた手に対して、いろいろ聞かれても困るということはあるかと思います。渡辺さんは本当に率直に話してくれますから、ちゃんと材料は渡したという気持ちもあるでしょう。私は終わってからもほとんど聞かない。すべて自分で考えて書いていますから、責任もすべて自分にあるという感じですね。

――棋士との距離の取り方も、記者によってだいぶちがうと。

ADVERTISEMENT

勝又 そうですね、対局後に細かく取材される人もいますから、そのあたりはいろいろあるかと思います。

棋士室が情報収集の場所に

――当日は、どういったスケジュールですか? 何時くらいに来られるのでしょうか?

勝又 私はぐーたらなんで、対局開始の10分前には来るようにしていますが、みんなもっと早いですよね。藤井さんは?

藤井 1時間前に棋士室にいるようにしています。

 

勝又 これが本当の姿だね(笑)。菅井竜也八段とか早めに来る棋士もいるので。

――早めに来るというのは、対局場に入る棋士の姿を見るためですか。

藤井 はい。あとは棋士室で、みなさんけっこう雑談されているので。

勝又 関西は、対局前に棋士室で待っている人がけっこう多いんですよ。あそこが情報収集の場所になる。

――棋士室?

藤井 もともとは記者室という名前だったんですが、いつの頃からか「棋士室」と呼ばれるようになりました。奨励会員が練習将棋を指したり、中継記者が記事を書いたりする場所です。

勝又 関東にはないので、こちらの棋士が羨ましがっている部屋です。

藤井 そこで早く来た先生が雑談していて、その雑談に情報が詰まっていたりするので。

対局が始まり、数手進むと盤側を離れる人も

――なるほど。そして10時の対局が始まるときは、盤側にいると。

藤井 そうですね。

勝又 最初は、何を置いているのか見たりね。渡辺名人みたいにシンプルな人もいれば、永瀬さん(拓矢王座)みたいに栄養ドリンクをたくさん並べたり、佐藤会長(康光九段)のように全スポンサーの商品を置いていたり。

藤井 そうなんですか!

勝又 そうですよ。一度、観戦記取るといいですよ。

――その後、対局が始まって数手進むと盤側を離れる?

藤井 そういうルーティーンの人が多いと思います。私も最初の頃は、あまり長いこといたら邪魔かなって思って棋士室に戻ったら、他の観戦記者の方から「早くない? 私は、対局開始からは30分くらいいるよ」って言われたので、もう一度戻ったりしていました(笑)。

勝又 それも人それぞれだし、対局者によってはほとんど動きがないような人もいるから、いろいろですよね。私の場合、大学で数学を学んでいたような人間なんで、人物描写が苦手で、あまりそこに力点を置いていない。最初の頃はやろうと頑張ったんですけど、いまでは無理なものは無理と割り切っています。まあ、指し手をきちんと書くということはやっているので、ある程度のことはメモしますが、自分の得意なことをやろうとしています。