終盤戦はみんな側で座って見ているのが共通
――対局場を離れると、モニターで見ているんですか?
藤井 棋士室にはパソコンがあるんですが、そこにカメラが付いていて見ることができるんです。
勝又 それは関東の記者室にもあって、ABEMAなどで中継がなくても見ることができるんですよ。
――その後は、時々見に行く感じですか?
藤井 そうですね。1時間に一度くらいは見に行くようにしていますね。
勝又 それも人それぞれですね。ただ共通しているのは、終盤戦は、みんな側で座って見ていることでしょう。
このように事前にメールをするなどできる準備を整えてから対局当日を迎えるという藤井女流だが、そう思惑通りには進まないこともあるようだ。今回、ペンクラブ大賞を受賞した観戦記でも、思わぬ偶然から印象深いエピソードが生まれている。
《温泉につかりながら、「藤井には盤が光って見えたりするのかな……」などと考え、夜遅く浴場を出た。すると、たまたま向かいの湯殿から藤井が出てきた。思わず、今考えたままを尋ねると、普段は声の小さい彼が大笑いした。「盤は光りません。考えて考えて、考え抜いた末の手です」》(《第34期竜王戦七番勝負第3局 藤井聡太―豊島将之(読売新聞)》より)
取材する機会を伺っていた時に、お風呂から藤井竜王が
――今回、藤井さんが観戦記部門で優秀賞に選ばれた原稿の中で印象的なのが、このお風呂上がりの藤井竜王の話です。これは偶然の出会いから生まれた話ですね。
藤井 あのときは藤井先生に事前取材ができず、ゼロの状態からスタートしていたので、どこかに藤井先生と話す機会がないかと思っていたんです。対局中、私は一歩も外に出なくって、娯楽がジュース飲むことくらいしかなかったので、宿の自販機で5本くらいジュースを買っていたら、隣にあったお風呂の出入り口がガラッと開いて、誰やと思ったら、藤井先生だったんですよ。浴衣なんですよ。え! と思ったんですけど、今、聞くしかないやろと思って。
――驚きますね(笑)。
藤井 それでパッと思いついたのが、「盤が光ってここに打てといった」という谷川先生(浩司十七世名人)のエピソードでした。今しかない。今しかないと思って聞きました。あれがちょうど1日目の対局が終わった後でしたね。事前に練った質問ではなかったので、それが注目されたのは不思議な感じでした。
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対局前には、将棋の研究も行うが、なかなか当たらないと二人は語る。
将棋も観戦記も、そう思う通りにはいかないもののようだ。ただ、私たち観る者は、きっとそんなところに惹き付けられるのだろう。
写真=佐藤亘/文藝春秋
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