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ここ10年で変化した客層

 日本の自動車史を彩る数々の旧車が展示される日本自動車博物館を回っていると、意外にも若い男女が多いことに気づく。自分たちが生まれるよりも前の車をじっくりと鑑賞し、「かっこいい」「かわいい」と各々の感想を語り合っているのだ。

「10年ほど前までは来場者のほとんどがシニア世代の方だったんですが、最近は家族連れの方や若いカップルなど、幅広い世代の方が来てくださっています。昨今のネオクラシックカーブームもあると思いますが、もっと単純に、一台一台デザインにしっかり特徴がある当時の車を楽しんでいただいているのかな? と感じていますね。

 それ以外の来場者の話でいうと、たまに冗談交じりで『これ売ってもらえんのけ?』と聞いてくる人もいますね(笑)

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 ただ、もちろん当館は車を大切に保管展示するのが仕事なので、すべてお断りさせてもらっています。

 とはいえ、お断りしづらい方が来館されることもありますよ……。Gumball3000(注:主にヨーロッパを舞台に毎年展開される国際公道ラリー。2018年には日本も舞台に選ばれた)の中継地点として当館が選ばれた際には、名前は出せないんですが、海外のセレブリティがランボルギーニやフェラーリに乗って来られて。

 そういった方から『ほしい』と言われたときは断り方に困りましたね。飛行機貸し切りで来日されるような方たちですから、実際に購入できる資金力があるわけですからね……」

 もちろん、来館者一人ひとりの属性によって対応が変わるわけではない。日本自動車博物館にとって大切なのは、寄贈してもらった大切な商用車・乗用車を当時の姿そのままに展示して、往時の車文化の一端を味わってもらうことだ。

EV化が進むなかで……

 現在、世界の自動車文化を取り巻く環境は大きく変わっている。日本自動車博物館は今後どのように収蔵展示を進めていこうと考えているのだろう。

寄贈時点でのカスタムは基本的にそのままにしている。当時の車文化を伝えるうえでのこだわりだ

「車が好きな人であれば誰もがご承知の通り、ガソリンエンジンはどんどん終息に向かっています。新しいガソリンエンジンの開発もほとんどしていない状況ですもんね。昔はエンジンの開発に力を入れて、その性能を売りにしていたわけですが、今はあくまでもエコが主体というわけです。

 そうした社会的な流れもあって、“趣味”として車を買う人は本当に少ないのではないかと思います。『どうしてもこの車がないとだめ!』という発想ではなくて、あくまで“家電”として自動車と付き合っているのかなと。

 もちろんそれが悪いことだと思っているわけではありません。ただ、“自動車を愛する人たち”が日々訪れてくれる博物館を運営していく立場としては、『EV車を充実させることで来場者の方が喜んでくれるのか?』など、新車をどんどん収集展示していくことに疑問を抱かないわけではありません。

『お金を払ってまで見ていただけるのか?』ということを日々考えています。私達の仕事はメーカーがポリシーを持って作っている車を展示することです。新しい年式だから遠慮する、EVだから遠慮するといった話ではなく、あくまでメーカーさんのポリシーを感じられるかどうか。それこそが来場者の方のご満足につながるのだと考えています」

写真=深野未季/文藝春秋

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