展示車両数は常時約500台。さらに展示している車以外にも約300台の車両を保有する日本最大規模の自動車博物館が石川県小松市にある。創設したのは、富山県小矢部市に本社を置く、住宅設備機器卸売、ブロック製造販売、生コンクリート製造販売を営む「石黒産業株式会社」の代表取締役社長を務めていた故前田彰三氏だ。ご子息である前田智嗣氏は現2代目館長であり石黒産業株式会社代表取締役社長である。

 従業員数わずか100名強の民間会社の代表は、いかにしてこれほどまでの規模の博物館を創設できたのか。いったいどんな人物だったのか。「お金に物を言わせて日本中から車をかき集めてきたのでは?」と不埒な想像をしながら話を聞きに行くと、日本自動車博物館職員の前田圭一氏からは意外な答えが返ってきた。

 

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「使い捨てるのは忍びない」という思い

「まずは当館の創立の経緯をお話ししたほうがいいかもしれませんね。創立は昭和53(1978)年のことで、現在の石川県小松市ではなく、富山県小矢部市で館をオープンさせました。

 当時は、仕事で使用している商用車が経年で劣化してきたら、使っていた車をスクラップにしてどんどん入れ替えるような時代だったんですね。前田彰三は、住宅関連の資材を全国各地に販売するような会社を経営していまして、“相棒”として働いていた車がスクラップになっていくことに不満を抱いていたんです。

『使い捨てるのは忍びない。それなら大事に取っておこう』

 そして、自社で使っていた車を自身で保管し始めたのがそもそものはじまりなんです。その思いがどんどん強くなっていって、他の会社の人に対しても『私に預からせてくれないか』というようなかたちで頼んでいくうちに台数が増えていきました。次第に、とんでもない車両数になってしまったものですから、『一緒に汗水たらして働いた車達をいつか再び日の目に当てたい』という思いで、博物館創設へと動き始めたんです」