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森岡 監督としてチームを作っていくという過程での手応えを感じることはできたのですが、J3という環境の厳しさへの理解が足りなかった部分もあったと思っています。

――運営費がないために、10時間余り陸路での移動を強いられたり、年俸200万円程度とも言われる選手たちの生活など、プロリーグでありながら、J3では金銭面での話題が尽きません。

森岡 試合が増えると疲労の回復にも時間がかかり、それが成績にも表れてしまう。選手の食事面でも十分な配慮が行き届かないし、オフで気分転換できる金銭の余裕もない……といった現実を目の当たりにしました。2年目は移動手段の改善や昼食の提供など、クラブもいろいろとサポートしてくれました。それでも一時成績が低迷した時点で、監督交代の準備が進められていたのでしょう。快勝した試合のあとに解任を告げられました。

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――どのクラブでも、どんな社会でもある話ですが、いわゆる政治的な動き、クラブならスポンサーなどの存在が現場に介入することがありますね。

森岡 ピッチ上での戦略、戦術、育成……監督の仕事はそれだけを評価されるわけではないし、仕事はそれだけではないのかもしれないと考えることもあります。特に小さなクラブでは、現場と経営が密接なのかもしれません。同時に日本代表やJ1だけが日本サッカー界というわけではないのも事実。そういう意味で指導者になってから、さまざまな現場でいろいろなことを吸収できたと思っています。

プロサッカー選手として過ごした15年間を振り返って今、思うこと

――今は清水エスパルスでアカデミーヘッドオブコーチングという立場で、アカデミー(育成年代)に携わっていますが、将来的な目標は?

森岡 日本以外の場所で監督をやってみたいという気持ちはあります。タイなどの東南アジアでも日本人の指導者が活躍されている。それは刺激になりますね。

――著書『すべての瞬間を生きる PLAY EVERY MOMENT』で、ご自身のキャリアを振り返り、現在までの道のりをどんなふうに捉えていますか?

森岡 結構、挫折感満載のサッカー人生だったなと。それでもなんとか、繋がってきた。どんな苦労をしても次に繋がるんだというのを感じています。槇原敬之さんの『どんなときも。』という歌に“迷い探し続ける日々が 答えになること 僕は知ってるから”という歌詞があるんですが、まさにその通りだなと感じます。

 プロ選手を15年、その後の指導者としての時間、打ちのめされながらも前へ進む。それを繰り返していると、どんなにしんどい思いをしても、前向きにやっていけば、次へ繋がっていくんだと。確信に近い思いがありますね。そしてこれからも、今まで通り、七転び八起きというような人生なんじゃないかと思っています。

すべての瞬間を生きる PLAY EVERY MOMENT

森岡隆三 ,寺野典子

徳間書店

2022年6月9日 発売

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。