森岡 僕は3兄弟の末っ子なんですが、ひとつ上の兄貴が小学校時代から、とにかくサッカーがうまくて、読売ヴェルディのジュニアユース、ユースに所属して無敵だったんです。ふたつしか歳が変わらないので、自然と自分と兄とを比較してしまう。そうすると技術もそうだし、足の速さ、何を比べても自分が劣っているわけです。負けたくはないというよりも、そんな兄に近づきたいという気持ちもあったし、ひとりで散々ボールを蹴り続けるしかなかったので。
「自分を苦しめていたのは『日本代表の森岡隆三』」
――森岡さんも桐蔭学園サッカー部では1年時に高校選手権にも出場されました。
森岡 僕は桐蔭の中等部から高校へ進級したのですが、高校のサッカー部は外部からの優秀な選手が中心のチームで、内部の選手が所属するのは稀でした。それでもサッカーを続けたいので、直談判して参加させてもらったんです。一緒に入った仲間もどんどんやめていくなかで、とにかく食らいつくしかなかった。
地域の選抜に選ばれるような優秀な選手たちのなかで、「もう来なくていいから」と監督に言われないようにただただ必死でした。今思えば、新しい知識や知恵をたくさん吸収できる時間でもあったので、とにかく貪欲にやり続けた結果、チャンスをもらえたんだと思います。
――高校を卒業後に鹿島アントラーズとプロ契約、U-20代表にも選出され、清水エスパルスでJリーグ優勝、日本代表とエリートコースを歩んでこられたイメージもありますが、そんなきらびやかな道ではなかったんですね。
森岡 はい。エリートとは真逆のキャリアだったと思いますよ。でも、2002年のワールドカップ以降の数年間、自分を苦しめていたのは「日本代表の森岡隆三」だったと思ったんです。
――日本代表という地位へのこだわりを引きずっていたということでしょうか？
森岡 引きずるというか、あのときに戻りたいと過去の自分に縛られていたんだと思います。そうじゃなくて、新しい自分を求めるべきだったのに。
――それに気づいたのはいつだったのですか？
