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「圧死しそう」放置された通報の責任は

 それぞれが亡くなった犠牲者を悼みながら時間を食むように過ごす中で、惨事の責任の所在を巡る与野党の対立は日に日に激化しており、韓国社会をかき乱している。

 惨事が起きるおよそ4時間前から、「圧死しそうな状況なので通行規制をしてほしい」、「人が多くて圧死しそうだ。状態はかなり深刻だ」という通報が11件も警察に入っていたことが判明し、警察の責任が真っ先に問われた。

 その後、梨泰院がある龍山区区長や関係部署、さらには管轄省庁の行政安全部長官(大臣)などへ責任論は広がり、捜査を進めているソウル警察庁に設置された「梨泰院事故特別捜査本部」(以下、特捜部)は11月11日までに龍山警察署署長、同署情報課長、龍山区区長など関係者、路地に隣接しているハミルトンホテル代表など7人を立件し、現在取り調べを行っている。

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 しかし、捜査が警察庁長官や行政安全部長官などの上層部に及んでいないとへ批判が出ており、最初に現場に到着し、事態収拾を行った龍山消防署署長が立件されると消防関係者からは憤りの声が挙がった。14日には、国家公務員労働組合消防庁支部が李祥敏・行政安全部長官を職務遺棄などの嫌疑で警察へ告発。特捜部は16日、李長官を被疑者として召喚し、捜査に入ることを発表した。

11月5日にソウル市内で開かれた「キャンドル行動」主催のデモ。「梨泰院惨事の犠牲者を追悼します」、「尹錫悦は退陣しろ」、「退陣が追悼だ」のプラカードが並ぶ(著者提供)

 与党「国民の力」は真相究明が先としているが、野党「共に民主党」と進歩派は連日、政府と大統領の責任追及に焦点を当てている。進歩系の市民団体「キャンドル行動」は毎週末、ソウル市内でデモを行い、「尹錫悦大統領退任」のシュプレヒコールを繰り返している。デモに参加していた人に「まずは何が起きていたのか、究明することが先ではないか」と問うと、「尹大統領が退任すれば真相究明もできる」と返ってきた。

 また、野党は、真相究明には国政調査が不可欠とし、11月12日からはソウル市を皮切りに全国で署名運動を始めた。韓国の国政調査は、国会特別委員会または常任委員会で調査を行うもので、惨事の責任の所在があるとされる関係者を呼び尋問するが、中道系紙記者はこう吐き捨てた。

「まずは、捜査が終わるのを待つべきでしょう。野党は尹大統領の側近中の側近、李祥敏・行政安全部長官を呼び、責任を追及するスタイルで尋問することで、24年春の総選挙前に与党に打撃を与えることが目的です。責任を追及して解任させる。そんなことを繰り返してばかりいるから、次の対策へとつながらない。韓国で惨事が繰り返される背景です」