元アジアンの馬場園梓は笑い飯を「神」と評した
2021年秋から2022年春まで、22回にわたって『週刊文春』誌上で連載された「笑い神 M-1、その純情と狂気」は、こうして誕生した。この本は、その連載原稿に加筆・修正を加えたものである。
女性コンビとして2005年、初めてM-1決勝に出場した元アジアンの馬場園梓は、まだ笑い飯が無名だった頃から「この人らが売れんかったら、誰が売れんねん」と思っていたという。アジアンは久々の実力派女性コンビだったが、2021年に惜しまれながらも解散している。
「神なんですよ、ホントに。初めてネタを見たとき、『あ、すごい人に今、会ってるかもしれない』って思いましたから。お茶の間を温かい笑いで包もうという感じではなく、自分の中の完成された作品を、すごい角度からぶつけてくる。こんな人ら、おるんや、と。芸人って、普通は徐々におもしろくなっていくもんじゃないですか。でも、あの2人は最初っからほぼ完成されていた。完璧と完璧なんです。
だから、一般人の方に降りてきてくれるだけでいい。われわれは一段ずつ登っていく作業なんですけど。もう、そこが決定的に違うんです。ただね、西田さんは一般の人にも通じるようにかみ砕いてくれるけど、哲夫さんはかみ砕かないんです。脳の中身を、そのままさらけ出してくることがある。だから、時折、わけわからないときもあるんですけどね。あの人、ホント、頭おかしいんで」
千鳥の大悟が神妙な面持ちでいった言葉
笑いの神は、笑い飯の他にもまだいた。「笑い飯に認めて欲しかった」という言葉は、時折、「笑い飯と千鳥に認めて欲しかった」に膨らんだ。
レギュラー番組10本を持つ千鳥は、吉本興業切っての売れっ子コンビだ。今や、ダウンタウンの後継者とさえ言われている。その千鳥にとって、笑い飯は、この世界における「師匠」であり、「兄弟」だった。そして、ときに「教祖」でもあった。
笑い飯が結成される前から彼らと付き合いがある千鳥の悪童面の方、大悟は、神妙な面持ちでこう言った。
「今でも哲夫さんにおもろないと言われるのが、いっちゃん怖いですから」
──落ち込みますか。
「うん。誰に言われるより」