旅の玄関口である駅。その駅前は私のような旅人にとって最初に対面するまちの顔と言えるだろう。だがしかし近年は、全国各地で駅前の再開発が止まらない。
駅前の風景はどのまちも、どこかで見たことがあるような既視感ばかりで、心を動かされるようなまちの情緒がまるでない。私は「遠くまで来たんだなあ」と思わされる旅情が見たいのだ。大人が用意した定番スポットだけでなく、自分がいいなと思う場所を見つけたい。それが旅情なのではないだろうか。
そして、私は小松駅に降り立った。学生の頃は定番の観光都市にばかり行っていたが、ここ最近は特別ではない地方都市に魅力を感じているのだ。
小松駅前の激渋アーケード商店街
小松駅前から県道を挟むと、昔ながらのアーケード商店街が続いている。
石川県で現存するアーケード商店街は、金沢市にある近江町市場のほかには、小松駅前の商店街にしか残されていない。しかも車も充分に通れる道幅にかかるアーケードは県内でここだけだ。
なんなら隣の福井、富山を含めてもこれだけの道幅があるアーケードはここだけ。さらに途中で同じ幅のアーケードが交差しているではないか。今は人通りが少ないものの、かつてはどれだけ賑わっていたのだろうかと想像するのが楽しい。
アーケードに差し込む光はやわらかく心地よい。なによりまだまだ強い日差しや冷たい雨を遮ってくれるアーケードは、存在するだけでありがたい。
小松市といえば「特別な観光都市」というよりは「住みやすい地方都市」という言葉が似合う街だろう。それだけに、駅前商店街には名産品の看板や、郷土料理の店が並んでいるわけではない。薬局、衣料品、文具店、カメラ、寝具、宝石店……。
並ぶ店を見ると住民の日常が見えてくるようなラインナップだ。どのまちにもあるような風景だが、人々の生活が染み付いた、このまちでしか見ることのできない風景が残っている。まちを歩いているとまるで、地元の人になったかのよう。そんな疑似体験が楽しいのだ。