「商店街の入り口に《みよっさ》っていうとこがあるから行ってみたら? 小松のお祭りで出る曳山が見れるわよ」
小松で毎年5月に行われるお旅まつりでは、曳山の上で子供歌舞伎が演じられる。みよっさでは曳山の実物の展示や、お旅まつりの様子を映像で見ることができる。お旅まつりでは全8町のうち、当番制で2町が歌舞伎を演じるのだが、演じることができるのは、主にその町の女子のみ。しかも年齢制限もある。同じ町が当番になるのは4年に1度。
となると、その町に生まれたとしても、演じられるのは一生に一度あるかないか。そのタイミングでもし自分が、自分のこどもが演じられるとなったらどれだけ嬉しいだろうか。映像を見ていると、祭りを守り続ける人、地元で毎年楽しみにしている人、小松の人々の思いが伝わり実際に見てみたくなる。
「このあたりでどこかおすすめな場所ってありますか?」
数珠つなぎで地元の方におすすめスポットを聞いて回る。
江戸時代から続く乾物屋には石川県でしか売ってない珍味が……!
「江戸時代から続く乾物屋さんがありますよ。そこでふぐの卵巣のぬか漬けっていう石川県でしか売ってない珍味があるのでぜひ!」
本来ふぐの卵巣には猛毒が含まれているが、3年間塩漬けとぬか漬けにすることで毒が抜け、味わい深い風味になるという。解毒のメカニズムは未だ解明されていないため、免許を持った職人の手によって伝統的な製法が守られているそうだ。
アーケード商店街の並びに一際重厚な佇まいの店が目に入った。看板に嘉永年間創業と書かれた乾物屋「すみげん」。ガラス戸が開くと入り口近くに置かれたぬか漬けの香りが鼻をくすぐる。
目当てであるふぐの卵巣のぬか漬けのほか、いわし・にしん・ふぐの身のぬか漬けもある。さらにさば・たら・粕漬けバージョンと、種類が豊富でどれにしようか頭を抱えてしまう。味を聞きながら結局ふぐの卵巣のぬか漬けと、その他いくつか魚のぬか漬けを購入した。
ぬかは洗わず軽く落とし、薄く切ってそのままか、アルミホイルに包んで焼くとより香ばしくておいしいとのこと。
まずは薄く切ってそのまま食べてみた。卵巣は切っているとたらこのようにやわらかくホロホロと崩れてしまった。卵巣は猛毒、もしかしたら死ぬのでは……と一瞬頭をよぎるが、そんなことより好奇心が勝ち小さな卵をまとめてつまむ。口にすると魚卵特有のプチプチとした食感。そして一瞬塩辛い。しかしすぐ塩気は感じなくなり、じわじわと味わったことのない滋味が広がりあとを引く。これは酒飲みが好きそうだ。
次にアルミホイルで巻いて少し焼いてみた。香ばしい香りがいかにも食欲をそそる。塩気の代わりに甘みが強くなり、そのままより食べやすくなった。ネット販売でも買えるそうだが、現地で出会ったら一度試してみてほしい。