1959年(126分)/東宝/2750円(税込)

 前回も述べたように、橋本忍が脚本を書いた作品の多くには「主人公が現状を打破せんと奮闘すればするほど状況が悪化する」という特徴がある。今回取り上げる『コタンの口笛』も、またそうだ。

 しかも監督は成瀬巳喜男。状況が悪化するドラマを描く名手だ。そんな二人が組んだ作品。とにかく救いがない。

 舞台は北海道の千歳の町はずれ。そこでは本州からの開拓民系の住民による、アイヌ系の住民に対する過酷な差別が行われていた。本作はその様が容赦なく描かれる。

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 飲んだくれの父(森雅之)と暮らすアイヌの姉弟、マサとユタカは学校で同級生から陰湿なイジメに遭っていた。

「髪の毛や顔の色で人間の値打ちが決まるわけじゃないって言われてきたが、なかなか抜け切れるもんじゃない。だが、お前たちは全く違った時代に生まれてきたんだ。思い切って新しい空気を吸って伸びていくんだな」という父の言葉もあり、姉弟は毅然と暮らす。

 だが、状況はひたすら悪化していくのみ。中でも印象深いのは、イカンテ婆(三好栄子)をめぐる顛末だ。孫のフエ(水野久美)が校長の田沢(志村喬)の息子(久保明)と恋仲にあることを知ったイカンテは、二人の結婚を田沢に申し込みに行く。

「アイヌも区別しない」ことをモットーに公平に接してきた田沢だったが、イカンテに話を持ちかけられた途端、明らかにその腰が引ける。

 それまでの堂々とした善人ぶりから一転し、保身の小人物に成り果てる田沢。表向きそう見せないようにしている志村の繊細な演技もあいまって、公平・公正に見せてきた人間の奥底に宿る差別感情の根深さを生々しく見せつける。

 フエは失踪、失意のままイカンテは息を引き取った。

 その後も、不幸は続く。差別主義者の同級生に果敢にも決闘を挑んだユタカは、相手の卑怯な手段により大けがを負う。マサに優しく接してくれた美術教師(宝田明)は、絵画展に入選したことで東京へと去った。そして、心を入れ替えて酒を断って仕事に身を入れるようになった父は、事故で命を失った――。

「昔から大勢のアイヌがそんな苦しさで泣いてきた。そして、やっと諦めることを覚えたんだ」という木彫り熊職人(田島義文)の言葉が痛切に突き刺さり、「私たちはどんな酷い目に遭わされても泣き寝入りするんですか」というマサの絶叫が空しく響く。そして、最後に現れる叔父(山茶花究)の無慈悲な冷酷さ。

 徹底して容赦ないその内容は、観ていてとにかく苦しくなるほど。それだけに、こちらに訴えかけてくるものが途方もなく重くのし掛かった。