わずか5人の家族旅行に「大型自動車が3台」
通訳やガイド、荷物を運ぶポーターにいたるまで、JALグループが雇ったスタッフたちがその役目を担った。先の日本人留学生がガイドをしたのは、フランスからベルギーに向かったときのことだ。
JALのパリ支店長から連絡を受けたブリュッセル支店長が、パリからベルギーへ入る鉄道路線の最初の駅であるブリュッセル南駅で森下一行を出迎えたという。出迎えのために用意されたのが、英ロールス・ロイスと独メルセデス・ベンツのリムジンカー、それに大型のリムジンバスだ。わずか5人の家族旅行のためになぜ3台の大型自動車が必要だったのか。日本人ガイド留学生に尋ねると、こう答えた。
「まず列車から降ろされた荷物に驚きました。数えてみると、53個のトランクが並べられていきました。もちろん一家族の旅行でそんな大量の荷物なんか見たことないし、それも全部ルイ・ヴィトンデザインのトランクでした。JALパックの課長から運んでくれ、と指示され、ポーターさんといっしょにそれらのトランクを運びました。彼らは慣れたもので、黙々とリムジンバスに積み込んでいく。もちろん、荷物運びは無料ではありませんから、ポーターさんは大喜びでしたね」
つまり、日本から運ばれてきた大量の衣裳や荷物といっしょに移動するため、現地でリムジンバスを仕立て、そこにトランクやスーツケース類を積み込む必要があったわけである。一方のロールス・ロイスには森下夫妻とJALパックの課長、ベンツのリムジンには3人の娘たちとガイドが乗り込み、ホテルシェラトンに向かった。ベルギーの滞在は、首都ブリュッセルで2泊、北の都ブリュージュで1泊。ホテルはもちろんスイートルームで、荷物を収納するため、最上階の同じフロアーにさらにもう一つ部屋を借りた。
トランクには「安道」や「豊子」「美佐子」などと日本語で書かれた札が付けられていた。日本語なのは荷物の中身が本人にわかるようにするためで、パーティ用のタキシードやスーツ、夫人のイブニングドレス、なかには子供たちの宿題が詰め込まれたスーツケースまであったという。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。