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 京都で何百と軒を連ねる置屋の雰囲気はそれぞれだろう。桐貴さんが舞妓の見習いとして入ったばかりの2015年当初、置屋での食事の時間は決して悪いことばかりではなかった。

「その頃は先代のお母さんが食事を作ってくれていました。戦争を経験したお母さんだったので、『舞妓たちに少しでも贅沢させたいから』と戦後に高級だった砂糖をたっぷり使ったお料理を振る舞ってくれました。大切に思ってくださっているんだなと感じられて嬉しかったです」

桐貴清羽さん ©文藝春秋 撮影/宮崎慎之輔

 しかしながら先代の母親がいなくなってからの食事では、辛い記憶のほうが強く印象に残っているようだ。

「糸ひいてないから食べよし。豚にならんようにな」

「置屋では朝ごはんはなし。お昼ごはんも軽くお米とお漬物やお茶漬けをいただく程度ですが、その代わりにお座敷に出る前の夜ご飯はとても量が多いんです。

 お母さん(置屋の主人)の実母がご飯を作ってくれていたのですが、目玉焼きがふたつのった山盛りのチャーハンに500グラムくらいのハンバーグが出されたときは苦しかったですね……。残り物を捨てることは許されないので、『明日食べます』と取っておいて次の日の夜にいただくのですが、冷蔵庫でなく食器棚に保管してあるので夏場などは変な匂いがしてくる。

 でもお母さんは、『糸ひいてないから食べよし。豚にならんように気を付けよしや』と(苦笑)。戸棚に眠っていた消費期限が3、4年切れた酸っぱくて変な味のマヨネーズが、料理に大量にかかっていたこともありました。理不尽だと感じても、絶対に文句なんて言えません」

 舞妓のお座敷は夜6時から9時までの「先口」と、9時から12時までの「後口」の二部制。深夜に帰宅して、髪結いをする日などは朝の4、5時に、ない日は昼頃に起き、その後は三味線や踊りのお稽古に出かける。稽古がない日の過ごし方は置屋によって異なるが、束の間の自由時間を過ごしたり、屋形の掃除を手伝ったりして過ごすのだという。

正月祝いのお座敷での写真(桐貴さん提供)

 置屋で出される食事は宴会前の夕方から夜にかけて一度のみ。朝や昼は自分たちで用意する、もしくは食べないという場合が多いそうだ。

 ある花街の置屋に在籍していたという元舞妓のAさんも、「腐ったものが出されるのはあるあるなんですよ」と話す。

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