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――映画ファンとしては、会長役の三浦さんがいつも被っているピンク色のキャップにも目が行ってしまいました。ピンク色のキャップといえばトニー・スコット監督のトレードマークでしたが、あれは三宅監督なりのオマージュだったのでしょうか?

三宅 まあそんな大仰なものでもないんですけどね(笑)。たしかにトニー・スコットは大好きな監督ですが、今回あの帽子を選んだのは、どちらかというと直感です。僕はもともと、俳優さんとの衣装合わせの時間が大好きで、今回も友和さんとあれこれ試していくなかで、ふと「こんな帽子があるんですけど」と試してもらったところ、これがよかった。それで「ぜひこれでお願いします」と自然に決まりました。

©2022 「ケイコ 目を澄ませて」製作委員会/COMME DES CINÉMAS

 とはいえ、ケイコにとっての会長は、自分は絶対にこの人についていくぞ、と決めている存在ではある。自分もまた同じようにリスペクトしている上の世代の人たちの一人として、トニー・スコットがいるわけで。直接会ったこともないし、師匠でもなんでもない遠い存在ではありますけど、尊敬する彼のアイコンとしてピンクの帽子があることは、もしかしたらこの映画にもどこかで影響しているかもしれません。

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「うわ、これってもうダンスじゃん! これを撮りたい!」

――この映画には、シャドーボクシングの場面や、トレーナーとのやりとりの中で身ぶりを真似していく場面がたくさんありますよね。それは、監督が俳優さんに演出の中で動きをつけていく関係にもどこか通じるのかなと感じました。

三宅 あそこに演出する側と俳優との関係性があるかも、というのは、今言われて初めて気づきました。ただ、ああやって身ぶりを反復し続ける行為は、僕が取材のため俳優のみなさんと一緒にジムでトレーニングしていたときに、実際にずっと繰り返していたことなんです。

©2022 「ケイコ 目を澄ませて」製作委員会/COMME DES CINÉMAS

 ジムの鏡の前に立って、(俳優兼ボクシングトレーナーでもある)松浦慎一郎さんがまず見本を見せて、その横で僕と岸井さんが同じようにパンチを出す。この時ちょっとでも身ぶりを間違えると、三人の動きが途端にずれてしまう。そういう練習を延々と続けながら、ボクシングってそういうものなんだな、と学んでいきました。と同時に、こうして身ぶりを反復していくことでさまざまな映画の記憶が呼び起こされ、これは映画にとって極めて美しい瞬間であり、素晴らしい関係性であるということに改めて気づかされました。そういう意味でも、練習場面を撮るのは本当に楽しかったです。