〈あらすじ〉

 1960年代、フランス西部。大学で文学を専攻するアンヌ(アナマリア・ヴァルトロメイ)は教授が一目置くほど優秀だったが、大切な試験を前に妊娠が発覚し、勉強が手につかなくなってしまう。労働者階級に生まれたアンヌにとって、出産による学業の中断は、教師になる夢が閉ざされることを意味するからだ。かかりつけの医師に「なんとかして」と頼むが、即座に拒絶される。両親にも2人の親友にも打ち明けられず、一人であらゆる解決策に挑むが、タイムリミットが刻一刻と迫っていた。

〈解説〉

 原作は2022年度のノーベル文学賞を受賞したアニー・エルノーの、実体験を基にした短編小説「事件」。中絶が違法だった時代に望まぬ妊娠をした主人公が、自身の未来のために奮闘する姿を描く。オードレイ・ディヴァンの監督第2作。第78回ヴェネチア国際映画祭金獅子賞受賞。100分。

  • 中野翠(コラムニスト)

    ★★★★☆女ならではの脚本・監督。まだ少女らしさを残すヒロインの苦渋の選択。陽光や青い海の描写が、対比的に利いている。

  • 芝山幹郎(翻訳家)

    ★★★★★これは戦記か。つい敬遠したくなる主題だが、異様な迫力が画面から放射される。デモーニッシュな戦士の姿が眼に残る。

  • 斎藤綾子(作家)

    ★★★★☆脳天まで身体を抉られるような恐怖と孤独を、あのことを悪とする人々はどう見る? 自業自得とか自己責任とか言う?

  • 森直人(映画評論家)

    ★★★★★まだ映画がタッチしていない領域への果敢な挑戦。『主婦マリーがしたこと』も遥か遠く、体感型の文体が切り開く新境地。

  • 洞口依子(女優)

    ★★★★☆ヒロインの皮膚の下に潜んで映し出すようなカメラの動きにハッとなる。中絶と向き合う彼女はまるで闘う兵士の横顔。

  • もう最高!ぜひ観て!!★★★★★
  • 一食ぬいても、ぜひ!★★★★☆
  • 料金の価値は、あり。★★★☆☆
  • 暇だったら……。★★☆☆☆
  • 損するゾ、きっと。★☆☆☆☆
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『あのこと』(仏)
12月2日(金)よりBunkamuraル・シネマほか全国順次公開
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