「目の前の佐々木はもうはっきり言って“絶望”状態でしたね。それくらい落ち込んでました。母親にとって、子供という何に代えても守らなければならない存在があると、上司に大変な弱みを握られたような感覚になるんです。そしてその上司の言動によっては休暇申請の提出すら怖くなり、その状態を放置すると、苦しみ抜いた挙げ句、自衛隊を辞めることにもなる」
金野は防大女子1期生として日ごろから後輩女子に目配りをし、廊下で行き会えば声をかけていた。佐々木の仕事ぶりが高評価を得ていることもよく知っていた。
「佐々木はもともとすごく能力が高くて、気が強い。子供がいるからって他に迷惑をかける仕事の仕方はしてないし、誰にも引けは取らないという自信があるから、休んで遅れをとりたくないと思うタイプなんです」
佐々木を救った「金野のアドバイス」
金野は、自衛隊を辞めようかと思うと呟く佐々木に、こう言って聞かせた。
「その上司の言っていることは、ごく一部の考え方。佐々木の価値を知らないんだよ。大多数の上司は理解してくれる。育児休業なんて長い自衛官人生のわずかな期間にすぎないんだ。空自にとって佐々木のような才能を失うことがどれほどの損失か。佐々木を一から育てるのは大変な労力なんだよ」
あくまでも仕事を休まず育児との両立をはかろうとする佐々木と、防大女子1期生として常に先頭を切って歩んできた金野の2人は、似たもの同士かもしれない。
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