良いものは出来たがなかなか売り方が…。そんなときに浮かんだ「思い出」
ただ、いくら納得できる塩ができても、それがすぐに売れるほど甘くはない。大手スーパーとの取引の話もあったが、うまくはいかなかったという。
そこで村上さんは、JR西日本にこの塩を持ち込んだ。
「この浜をまるごと買い取って整備したのは私の父なんですが、当時の国鉄が山口県の指定海水浴場をつくるということで視察に来たんです。
結局指定海水浴場にはならなかったのですが、視察に来た国鉄の方が、『石にかじりついてでも頑張りなさい』とハッパをかけてくれた。だから、JRさんにも縁を感じていたんです」(村上さん)
国鉄時代の小さな縁を思い出した村上さんは、精魂込めて生み出した塩をなんとか広く知ってもらう手はないものか、JR西日本のグループ会社、ジェイアールサービスネット広島に相談する。
けんもほろろの対応でもおかしくないところ、話を聞いてもらうことはできた。すぐには形になることはなかったが、そのあと立ち上がったのが“てみてプロジェクト”だったのだ。
「ジェイアールサービスネット広島から龍神乃里さんを紹介してもらって、これはいいんじゃないかと実際に足を運んで村上さんや松田さんと話をしたんです。それで、プロジェクトに入る1社になっていただけないか、と」(安藤さん)
「てみてプロジェクトとはこういうのですよ、と話を聞いて。もともとJRさんとは縁を感じていたからね。直接詳しいことを聞いたのは生産部長の松田だったんだけど、私はもう、じゃあやろう、お願いしよう、と二つ返事でした」(村上さん)
駅で売るようになって起こったこと
そうしてプロジェクトが動き出す。JR西日本がアサインしたプロジェクトアドバイザーの稲葉綾子さんとともに、商品のパッケージデザインやコンセプトをなどを固め、いま店頭に並んでいる形をわずか数ヶ月で完成させた。
「あまり時間をかけないのもこのプロジェクトの特徴なんです。だらだらやっていても良いものになるかはわからない。時間を決めてパッとやる。それで成果につなげていければ」(安藤さん)
JR西日本の安藤さんは龍神乃里を含めたプロジェクト参加10社やそれに関わるアドバイザーなど、全体を統括する立場。その中でも各社に自ら足を運んでコミュニケーションを取りながら、ひとつひとつ課題を克服して商品開発を進めていった。完成した商品が、エキエ広島のてみて市場に並んだのは、今年の10月20日のことだ。
「JRさんには感謝しかない。本当に。私のような人間ともしっかり向き合ってくれて、わがままも聞いてくれて、アドバイザーとの縁もいただいた。広島駅で売るようになって、『おいしかった』という礼状が届いたり、『駅で見たよ』と言われたり。次につながっていく、良い機会をいただいたと思っています」(村上さん)