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 2つ目には、日本の対外収支構造の変化が挙げられます。

 かつての日本は工業製品を大量に輸出して、巨額の貿易黒字を抱えていました。最近の日本の貿易収支はトントン、今のようにエネルギー価格が上がると赤字の状態です。ところが経常収支で見ると、相変わらずかなりの黒字を維持している。実は日本は、海外投資からの利益・配当である投資収益収支で稼ぐようになり、貿易大国から投資大国へと変貌しているのです。

 最近の投資収益は、金融機関ではなく製造業の海外現地法人の儲けが大半を占めています。問題は、帳簿上では収益を親会社に移転して連結決算にも反映するのですが、資金の大部分は現地に置きっぱなしで円転しないのです。一方で貿易の支払いはあるから、どうしても日本全体としてはドル不足に陥ってしまう。需給の関係でドルは上がり、円は下がることになるのです。

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 このような対外収支構造が根底にあることを考えると、現在の日本は円高になりにくく円安が進みやすい状態であると言えます。2011年には、1ドル70円台の超円高時代がありましたが、あの水準まで戻ることはもはや考えられません。

 とはいえ、現在の円安は明らかに行き過ぎの感がある。ビッグマックひとつ買うのに米国では5.15ドルも払わなければいけないのに対して、日本では2.83ドルで買える。購買力平価(全く同一の商品を買うことができる購買力)で比較すると、1ドル=100円くらいが適正だろうとみられます。

 ですから、過剰な円安はいずれ調整されて戻っていく。ここまで異常な状態が、この先何年も続くとは思いません。

 円相場を占ううえで注目すべきは、やはりアメリカの今後の動向です。FRB(米連邦準備制度理事会)は「ある程度は景気を犠牲にしてでも、絶対にインフレを抑え込む」との強い意志のもと、0.75%もの大幅な利上げを4回連続でおこなう、異例の対応をとりました。インフレはしぶとく続いており、利上げの効果が表れるまではある程度時間がかかりますが、あと半年もすれば経済指標に反映されてくるでしょう。少なくとも来年中には、利上げのピークが見えてくるはずです。

 それに伴い多少は円高が進み、1ドル100円まではいかないにしても、最終的には120円程度に落ち着くのではないかと思います。

日銀・黒田総裁 ©時事通信社

日銀が唯一とれる手は?

 インフレに対応すべく各国の中央銀行が金融引き締めに走るなか、日銀だけが利上げをせずに金融緩和を続け、孤立を深めました。

 なぜ日銀は大規模な金融緩和を続けているのか、黒田総裁にはどのような思惑があるのかを、ここからは考えていきたいと思います。