大企業と労組が結託し、若い世代が犠牲になった――。東京財団政策研究所主席研究員・早川英男氏による「賃上げを阻む『97年労使密約』」(2023年1月号)を一部転載します。

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 今、日本人が何よりも懸念しているのは、目の前の物価高なのではないでしょうか。2022年10月の消費者物価指数は前年同月比でプラス3.6%、40年8カ月ぶりの上昇率を記録しました。

早川英男氏 ©文藝春秋

 物価高の発端は、2022年に始まったグローバルインフレです。新型コロナで傷んだ経済を回復させるため、各国は経済対策にじゃぶじゃぶとお金を流してきましたが、その結果として物価が急激に上昇。さらに同年2月にはウクライナ戦争が勃発し、資源・食料価格が高騰し、その波が日本にも直撃しました。

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 追い打ちをかけたのが、同時期に進行した円安です。年明けから1ドル115円前後で動いていた為替相場は、春以降に円安方向へと動きます。10月には1ドル150円を突破し、32年ぶりの安値を更新しました。輸入物価が押し上げられ、国内の食料・エネルギー価格に上乗せされています。

 日本の物価高は「グローバルインフレ」と「円安」の二重苦と言われてきましたが、現在は主に円安が物価高に大きく影響しています。円安対策については日銀の金融政策が注目を集めました。ところが肝心の黒田東彦総裁は金融緩和を続ける方針を示し、金利を上げようとはしません。その頑なな態度が国民やメディアの反発を招き、日銀は無策だと批判を浴びることになりました。

 私は1977年に日本銀行に入行し、在職中は調査統計局長(2001〜07年)、理事(2009〜13年)などを務めました。今回はOBの立場から、日銀が金融緩和を続ける理由、この10年の金融政策の問題点などを分析し、今後の日本経済への処方箋についても考えてみたいと思います。

円高になりにくい構造

 まずは、現在の状況を整理しましょう。

 進行中の円安について、私は2つの要因があると考えています。

 1つ目は先ほども触れたように、内外金利差の拡大です。アメリカがあれだけ金融引き締めをしているのに、日本はいまだに大規模緩和に集中している。日米の金利差は4.5%まで広がりましたから、円安圧力が高まるのは当然です。