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クマよけ鈴を鳴らしながら星屑の空を見上げると…

 18時35分、会津越川に到着。「ここで降ります」と運転士に申し出てドアを開けてもらい、ここまでの運賃を払ってホームに降り立つと、乗客が旅行者1人だけになった会津若松行きは、闇の中へ溶け込むように走り去って消えた。11年ぶりに復活した無人駅の闇夜をじかに体験しながら、40分後に反対方向からやって来る小出行きの最終列車を待とうという、孤独なミッドナイト・トリップの試みである。

夜の会津越川駅で下車
日没後の会津越川駅。夜になると人の気配は皆無

 無人のホームは照明灯に煌々と照らされており、小さな待合室の中も明るいので、駅で列車を待っている分には四方が見渡しやすい。もっとも、駅の裏手の雑木林に光は届かず、木々の間から夜行性の野生動物が出てきそうな雰囲気が漂う。あまりにも静かすぎて不気味なので、急遽、持参していたクマよけ鈴を腰から下げて鳴らしながら歩くことにした。

漆黒の闇の中に浮かび上がる無人のホーム(会津越川)
同じ場所から日中に撮影。後方の雑木林の中に無人の神社がある

 ホームから離れて細い夜道を少し歩くと、国道にぶつかる。この時間帯に通過する車はほとんどない。周辺にコンビニの類の商店は一切ないので、夜に出歩く人の姿も皆無。そもそも、近所に民家は点在しているが、明かりがついている家を数えると2軒しかない。

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 チリーン、チリーンと鳴る自分のクマよけ鈴の音色だけが、夜目が利きにくい闇の中に弱々しく響き渡り、かえって心細さを増幅させる。このまま小出行きの最終列車が来なかったらどうしようか、などと考えながらふと夜道の真ん中で空を見上げると、「星屑」と称するにふさわしい満天の星が頭上を覆っていた。広範囲にわたって人工照明が少ないこの地域ならではの夜景を、何だか独り占めしているようで、悪い気はしなかった。

最終列車から漂う「沿線住民の生活路線」ぶり

日中の会津越川駅。周囲の民家の多くは空き家と思われる
今日の最終列車が会津越川駅に到着。乗降客は他にいなかった

 夜の無人駅体験は無事に40分で終わり、19時15分、まばゆい前照灯とともに現れた小出行き最終列車に乗り込む。

 2両編成のディーゼルカーの車内に、会津越川到着時点で6人の旅客が乗っていた。行楽客は3人で、あとは地元の男子高校生1人と沿線に住む中年男性2人。地元客はそれぞれ会津横田、会津大塩で下車して、夜陰の中へと歩いて消えていく。朝や昼の混雑ぶりでは垣間見るのも難しそうな沿線住民の生活路線らしさを、上下合わせて今日6本目となるこの車内で、初めて感じ取ることができた気がした。

撮影=小牟田哲彦

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 只見線全通当時(昭和46年)の写真や開通初日の1番列車の様子は、『「日本列島改造論」と鉄道―田中角栄が描いた路線網』(交通新聞社新書)に収録されています。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。次のページでぜひご覧ください。