お尻から伝わる強い振動は、うしろに連なる20両のコンテナ車の重みを感じさせる。北海道の読者に「文藝春秋」10月号を届けるために(もちろん他にも様々な物資を届けるために)、3059列車はひた走る。釜谷という駅を通過すると、右手前方に函館山が見えてきた。三橋運転士はこのあたりの景色が一番好きだと、後日のインタビューで話していた。
急に無数の線路と並走するようになり…
流渓川という北斗市を流れる二級河川を斜めにまたぐトラス橋を渡ると、車窓に工場などが増えて、市街地に近づいたことが分かる。住宅が増え、大型量販店などが続々と現れるようになると、わが貨物列車は徐々に速度を落とし始めた。
記者の友人で、函館のコミュニティFMのアナウンサーをしている女性がいる。時々彼女が担当する番組を聴くことがあるのだが、道路交通情報でよく出て来る「七重浜」という地名がある。それと同じ名前の駅を通過した。いよいよ函館に近づいたのだな、という思いが高まってくる。
左側から函館本線の線路が近づいてきて合流する。それまで単線だったのが、急に無数の線路と並走するようになり、函館貨物駅の構内に進入すると列車はさらに減速。午前9時48分に同駅に隣接する五稜郭駅を出発する長万部発函館行きのディーゼルカーが走り去っていくのが見えた。
3059列車は定刻より2分遅れで到着
わが3059列車は五稜郭駅の旅客ホームを左手に見て徐行し、午前9時50分、定刻より2分の遅れで函館貨物駅・着発7番線の所定の位置に静かに停止した。延着は道南いさりび鉄道線内に何カ所かの徐行区間があったことによるものだ。
停止するとすぐに機関車は連結を解かれ、機関車だけでさらに数十メートル前進して、線路の突端で停車する。三橋運転士と中村さんと記者の3人は、機関車の中を移動して、反対側の運転室に移動する。そして今度は向きを変え、いま引っ張ってきた列車の左隣の線路をゆっくりと進んでいく。この時、「文藝春秋」を載せたコンテナ「19G-21584」を確認することができた。昨日の夕方の上尾以来の再会だ。無事に津軽海峡の下をくぐって北海道にやって来ていたのだ。
我々の機関車が回送するあいだに、列車の本体はそれまで最後尾だった側にDF200形式というディーゼル機関車が取り付けられていた。ここからは向きを変えて札幌貨物ターミナル駅を目指すのだ。
10時02分、定刻通りに3059列車は出発していった。この時もう一度、コンテナ「19G-21584」を確認した。
無事に届いてくれ。あさっては発売日だ。
◆ ◆ ◆
さて、貨物列車が出ていった後に取り残された我々はどうするのか。これから五稜郭機関区に向けて回送運転をするのだ。