これまで3回、貨物列車に乗って添乗記を書いてきた。
1回目は茨城県の土浦駅から常磐線を通って南千住駅の隣にある隅田川駅まで、2回目は横須賀線の新川崎駅の隣にある新鶴見信号場から南武線の支線を経て、羽田空港の下に掘られた海底トンネルを通って東京貨物ターミナル駅まで、3回目は広島貨物ターミナル駅から山陽本線の“瀬野八”と呼ばれる急勾配を登っていく貨物列車を後押しする“補機”で西条駅までを往復した。
普通なら人生で一度も乗ることができない貨物列車に3回も乗ったわけで、貨物列車を愛する者としてこんな幸せなことはない。
ところが、そんな幸せ者にさらなる福音がもたらされた。これまで書いた添乗記と、取材はしたものの掲載されていない周辺記事をまとめて一冊の本にまとめようという話が持ち上がったのだ。これほどうれしい話はない。
大きなミッションを持って貨物列車に乗り込むことに
そのうえで担当編集者から相談が来た。
「せっかく本にするなら、もう一本添乗記を書けないだろうか」
そこで日本貨物鉄道株式会社(JR貨物)広報室でこのシリーズの第1回からご対応いただいてきた中村玲香さんに相談したのが2021年春のこと。
回答はこうだった。
「残念ながら、運転士へのコロナ感染防止のため、機関車への添乗をお断りさせていただいております」
じつに残念だ。貨物列車に乗れないことも、本を出せないことも残念だ。
「こんな残念なことがあるだろうか……」
と涙に暮れながら年を越し、2022年も半分が過ぎた6月21日の火曜日の午後のこと。中村さんから電話が来た。
「コロナが収まってきたので、感染対策を徹底すれば添乗可能になりました」
もはや無理かとあきらめかけていた4回目の貨物列車添乗の企画が、突如「ガッタン」と音を立てて動き出したのだ。その後たび重なるやり取りの末に、晴れてこのプランに正式な青信号が灯った。
今回は、ある大きなミッションを持って貨物列車に乗り込むことになった。そのミッションとは、題して「『文藝春秋』を北へ追え!」。
北海道と首都圏を行き来する貨物列車は、1日あたり最大42本が走っている。北海道から首都圏に向かう上りの貨物列車は、タマネギやジャガイモに代表される「農産品」や、砂糖や乳製品などの「食料工業品」のほか、製紙工場で作られる「紙」なども輸送している。つまり「原料」が主力なのに対して、首都圏から北海道に向かう下り列車は、そうした原料を加工して出来上がった「完成品」を中心に運んでいる。その中には当然「書籍」も含まれる。
「月刊文藝春秋」は毎月10日に全国一斉発売される。そして北海道で売られる同誌の輸送は、じつは貨物鉄道が担っているのだ。