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トンボが乱舞する田園風景の中を疾走

 7時19分。奥内というのどかな駅で列車交換(すれ違い)のために12分間の停車。

 何匹ものトンボが舞っている。

 青森市街の学校に向かう女子高生が自転車で走ってくる。その向こうから上りの列車も近づいてくる。タイミングとしてはきわどいが、彼女が列車に乗り遅れることはないのだろう。記者がそう考える根拠はただ一つ。「のどか」だからだ。

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 停車中、三橋運転士から話しかけられた。

 運転士「暑いようでしたら窓を開けてください」

 記者「ありがとうございます。大丈夫です」

 運転士「新幹線との共用区間では閉めていただきますが、あとはご自由にどうぞ」

 記者「ありがとうございます」

 7時31分。わが列車は奥内駅を発車。快晴の田園風景の中を疾走する。

信号場は、シーンと静まり返っているが…

 7時36分。後潟という駅の先で「火葬場通踏切」という踏切を通過する。通りや踏切の名前に使うランドマークとしてはやや強烈過ぎる気もするが、人に道を教えるときなどには間違いようのないネーミングともいえる。

 それ以来踏切の名前に興味を持ってしまい、通過するたびに確認するようになった。中沢駅と蓬田駅の間には「中中沢踏切」というのがあった。中々いい名前の踏切だと思った矢先に、ちょっとしたハプニングが起きた。

 電気機関車には、運転士が座る左側だけでなく、助士席のある右側にもワイパーが取り付けられている。中中沢踏切のちょっと先で、飛んできたトンボが記者の目の前のワイパーに絡まってしまったのだ。羽根をバタバタさせているが、トンボが自身の意思でもがいているのか、単に風圧によるものなのかはわからない。

 後ろに立つ中村さんに伝えようかとも思ったが、それを知った広報室としてもどうすることもできなかろう。トンボには気の毒だが、ここは見て見ぬふりをするしかない。その先、なるべくカメラのファインダーにトンボが写り込まないように工夫しながら撮影することになる。

 7時53分。新中小国信号場に停車。この先の分岐部でこの列車は、津軽線から北海道新幹線の線路に入っていくのだ。

さまざまなスイッチを操作する三橋運転士

 人里離れた山深いところにある信号場は、シーンと静まり返っている。しかし、三橋運転士は色々とスイッチを操作し、その確認作業に忙しそうだ。新幹線には我々が普段鉄道に乗っていて目にする「信号機」はない。その代わり、運転席に信号が表示されるようになっているのだが、この機関車も新幹線との共用区間を走る際にはそれと同じ設定にする必要があり、その切り替え作業などを行っているのだ。

 記者には確認することがないので、トンボの生存確認をする。脚をジリジリと動かしている。生きている。

 7時55分、3059列車は発車した。

 いよいよ北海道新幹線との共用区間に入るのだ。そして、青函トンネルをくぐるのだ。

写真=長田昭二