そこで、東京の印刷工場で刷り上がったばかりの「文藝春秋」が貨物列車で北海道に運ばれ、発売日当日の朝に札幌の書店に並ぶところまでを追いかける――という壮大な計画が持ち上がったのだ。
大変に長大なルポになるので、ここではその一部の「貨物列車添乗記」の部分を抜粋して掲載する。
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「文藝春秋」10月号の積み込みを見学
9月6日(火)の午後、埼玉県上尾市にある書籍取次大手「トーハン」の上尾センターを訪問した記者は、でき上ったばかりの「文藝春秋」10月号が、北海道内の発送先となる書店別に梱包されて、丁寧にコンテナに積み込まれるところを見学した。扉を閉め、施錠されたこのコンテナの扉が次に開けられるのは2日後の8日の朝、札幌市内の配送センターでのことになる。
トラックに載せられた12フィートコンテナ「19G-21584」は16時38分、今年初めて聞くツクツクボウシの鳴き声に見送られて、一路JR貨物の隅田川駅に向けて旅立っていった。
このコンテナは隅田川駅でトラックから下され、20時56分に出発する3059列車に積み換えられて札幌貨物ターミナル駅へと運ばれる。記者が今回添乗を許されているのは、途中の青森信号場から函館貨物駅までの157.6km。上尾からトラックの後を隅田川駅まで追いかけていたら間に合わなくなってしまうので、一旦コンテナとは別行動をとることにした。大宮駅から東北新幹線で青森に先回りして1泊。翌朝、青森信号場で当該列車を待ち受ける、というスケジュールだ。
ちなみにこのコンテナが無事に隅田川駅に到着し、列車に積み替えられて出発する感動のシーンは、書籍担当のK編集長とYカメラマンによって捉えられている。この原稿が書籍化される際にはその部分も盛り込まれるので、楽しみにしてほしい。
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貨物の積み下ろしや旅客の乗降は行わない「青森信号場」へ
さて9月7日(水)午前5時半。記者は青森駅近くのホテル前からタクシーに乗り込んだ。行き先は青森信号場。八戸方から青い森鉄道(旧東北本線)で青森駅に向かうと、駅の直前で大きく右にカーブして左側から来るJR奥羽本線と合流して青森駅に到着するが、その「右カーブ」に入る直前にある信号場だ。
「信号場」とは、運転上の理由があって列車が停止する設備はあるが、貨物の積み下ろしや旅客の乗降は行わない施設――を指す。貨物列車の場合、ここで機関車の付け替えや運転士の交代が行われることが多い。本州と北海道を結ぶ多くの貨物列車は、この青森信号場か、3.9km東京寄りにある東青森駅で機関車と運転士が交代する。
まず、構内にあるJR貨物東北支社青森総合鉄道部運転課長の高橋忍さん(※「高」の漢字は「はしご高」)を訪ねる。