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《青函トンネル貨物列車添乗ルポ》「ピイッ!」鋭い気笛を合図に、3059列車は青森信号場を出発した

「文藝春秋」を北へ追え! 貨物列車添乗ルポ #1

2023/02/23
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 高橋課長から青森総合鉄道部や青森信号場の概要などをうかがっていると、記者がこれから添乗する3059列車を運転する三橋直幸運転士と助役の駒井司さんによる出発前の点呼が始まった。細かな確認事項の申し送りがあり、最後に敬礼をする。写真を撮りながら、記者も心で敬礼をする。

青森信号場にて出発前の敬礼!

 ヘルメットと安全チョッキを装着して機関区を出て、線路を何本か渡っていくと、東京方から20両のコンテナ車を引き連れた3059列車がやって来た。昨夜20時56分に東京の隅田川駅を出発したこの列車は、途中黒磯駅、東仙台信号場、盛岡貨物ターミナル駅で運転士が乗り替わり、ここ青森信号場から次の中継地である函館貨物駅までを三橋運転士が担当する。そして向きを変えると、次の運転士が東室蘭駅まで乗務し、さらにそこで乗り継いだ運転士が終点の札幌貨物ターミナル駅まで運転することになっている。つまり7人の運転士が順番に受け持ち区間を運転することで、この列車の運行は成立する。まさに「駅伝」だ。

東京方からやってきた3059列車。記者は先回りして待ち構えていた

津軽海峡線専用の電気機関車へ付け替え

 当日渡された運行表を見ると、三橋運転士は前日の19時37分に函館貨物駅を出る94列車(札幌貨物ターミナル駅発、新座貨物ターミナル駅行)を運転して23時19分に青森信号場に到着して夜間滞泊。これから3059列車で函館貨物駅に戻って業務を終えることになっている。

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 午前6時48分、青森信号場着発1番線に到着した3059列車は、すぐに先頭の機関車(EH500-18号機)を切り離して、青函トンネルを含む北海道新幹線との共用区間の走行に対応した電気機関車(EH800-6号機)を連結する。

EH500-18号機が取り外され、EH800-6号機に付け替えられる。

 EH800形式は、青函トンネルを含む北海道新幹線との共用区間を走るために設計された機関車で、青森信号駅と函館貨物駅間のみを走っている。真っ赤なボディに白と銀色の帯をまとった精悍な顔立ちだが、先ほどまで引っ張ってきたEH500に付けられた「金太郎」のような愛称はない。気の毒なので何か素敵なニックネームを付けてあげたい。津軽海峡には「カマイルカ」が生息しているというので「赤イルカ」というのはどうだろう。あるいは「いるか太郎」とか……。まあどちらも「素敵」ではないので、この案は心に秘めたまま運転室に乗り込む。

EH800-6号機の運転室に乗り込む

 運転室の進行方向に向かって左側にある運転席に三橋運転士が座ると、出発前点検が始まった。

 右側には助士席が一つあり、毎度のことながら記者と中村さんとの間で「どうぞおかけください」「いえいえそういうわけにはいきません」という一連のやり取りを経て記者が助士席に収まり、中村さんがその後ろに立つ。これから約3時間の道のりを、女性を立たせて自分だけが座っていいものだろうか、という自責の念はあったが、実際に走り始めたら、座らせてもらって正解だということがよくわかった。それについては後で触れる。