10時09分。発車したEH800形式の6号機は、道南いさりび鉄道線に向かう線路を少し走るとポイントでJR函館本線の線路に移り、ものの数メートル先にある次のポイントで機関区への引き込み線へと進入していく。機関区内の信号で一旦停止したあと再び走り始めると、もう速度を上げることはなくゆっくり進み、何やら格納庫のような建物のすぐ手前まで進んで停車した。
これで本当に、記者の貨物列車添乗は終わってしまった。
「北斗9号」で3059列車を追跡
機関車を降りると三橋運転士は、車両周りを入念に点検し、最後に車輪止めを噛ませている。天気もいいし、せっかくなので機関車の前で三橋運転士の写真を撮らせてもらった。われながらいい写真が撮れたと思う。
その後追跡調査団の2名は、五稜郭駅を10時50分に出発する特急「北斗9号」で3059列車を追いかけることになっている。そのため三橋運転士からゆっくり話を聞く時間はなかったのだが、ご厚意により後日リモートでインタビューをすることができた。記事の中で出てくる三橋運転士の発言は、そのインタビューでお聞きしたことだということをご理解いただきたい。
朝食をとらずに貨物列車に添乗した我々は空腹であることを思い出した。駅の売店で買ったおにぎりとお茶を持って「北斗9号」に乗り込んだ。
乗り慣れた東海道新幹線や、景色の変化に乏しい東北新幹線は別として、記者が在来線、まして北海道の列車に乗って景色を見ずに寝てしまうことはまずない。しかしこの日は不覚にも何回かに分けて数十分間眠ってしまった。朝が早かったことやおにぎりを食べて満腹中枢が刺激されたこともあるのだが、それまで「貨物列車の機関車」という特上の乗り物に乗っていた者にとって、申し訳ないが特急列車は“格下”になってしまうのだ。
何度か短い眠りに落ち、目が覚めるたびに「俺、さっきまで貨物列車に乗っていたんだよな……」と思い返してはニヤニヤするのだった。
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今回のルポの本来のミッションである「『文藝春秋』を北へ追え!」は、2023年夏頃に株式会社文藝春秋から刊行予定の書籍『貨物列車で行こう!』(仮題)で詳しく書く。トーハン上尾センターでの積み込みから隅田川駅の発車の光景、さらには札幌貨物ターミナル駅での積み替え、そして配送センターを経て札幌市内の大型書店に雑誌が並ぶまでを追った「物流ドキュメント」は、過去にあまり例がないと思う。
もちろん過去に掲載した添乗記や、文春オンラインでは未掲載の「広島車両所ルポ」なども盛り込む予定なので、ぜひご期待ください。
写真=長田昭二